発表の場をも創造する

村上タカシ(美術家)

美術作品を創り発表していくパターンにはいくつかある。

  1. 個展やグループ展を貸し画廊を借りて発表するパターン
  2. 公募展に応募して発表するパターン
  3. 団体展などの会員となり、定期的に発表するパターン

これが今までの美術界でのオーソドックスなパターンであったと思う。しかし現在は情報が氾濫し、 多様な表現や新たなメディアの出現により、従来の権威や価値観に囚われないアプローチも増えてきたようである。

今回の「ライブラリープロジェクト」も発表の場をも創造していくプロジェクトの一つである。 それは新たな文化システムの提案でもあり、幾つかの不安と同時に壮大な可能性がある。
多くの人たちが身近な場所でアートに接する機会を創る。美術館や画廊に行かなくても作品が観れる。
映画館でなくてもレンタルビデオで映画を楽しんでいる人は多い。美術のアウトリーチの活動としての可能性はある。 しかし、システムとして提案するのであれば、作品を貸し出す場合、延滞、破損、紛失など様々なトラブルを想定する必要がある。

一過性のアートプロジェクトで終わるのではなく、従来の図書館の機能に組み込むことも可能である。 かつて国家プロジェクトとして中学校の学区域に一つは図書館を創ろうというビジョンのもと、 車による移動図書館や学校の図書室も創られた。そろそろ次の段階に入るべきである。 既に図書館では本だけでなく、ビデオやCD-ROMを貸し出しているところも増えている。 美術の場合はまずは、広い層へのアプローチと市場の開拓が必要である。
国がすすめた「読み」「書き」「そろばん」というのは現代では、「読み」「書き」「パソコン」なのかもしれないが、 「観る」という行為を軽視してきたことが現在の文化後進国の所以でもある。

新たなシステムの提案の場合、問題が発生する場合もあるかと思うが、恐れる必要はない。 エコマネーの普及と同じように様々な場所で多様なシステムのアプローチを試行する中、 オープンソースとしての提案となっていくことを期待したい。