各案の問題点

各案の問題点

磯崎:事務局の方からこれだけ革新的な姿勢で運営体制をお考えだということを聞いて、メディアテークをこういう形で進めているということ で、実現すれば他にないケースになるだろうと思います。先程からいくつか例に出ていますポンピドーセンターのケースを考えますと、やはり中での分割した縦 割りのシステムというのがかなり強固に出来上がっていて、なかなか運営が一体的にいかない、空間的にはひとまとまりになっているけれども、相互嵌入という のはなかなか難しいというようなことを実際に聞いておりますし、私が個人的につきあいました、水戸芸術館というのがあるのですが、これは芸術という名前の 元にギャラリーと音楽と演劇の3つの部門をひとまとめにして運営していくという形で、こういう施設のモデルケースにはなってきているのですが、それぞれ3 部門に芸術監督、芸術助監督がついておりまして、その間の相互の場所割りというのが相互に運用するというのはなかなかまとめにくい。たまたま館長が全体を 統括できる方なので、何とか進めておりますが、こういう問題は単純にシステムだけの問題ではなく、そういうものを理解した運営の長になる人あるいは運営の 方針を決める人が中心になっていただかないと新しいタイプの公共施設はなかなか運営がしづらいという経験もございます。そういう点で今、市の考えをお聞き しながら、メディアの将来について、運営というもの、それから市民の関わりなど、そういう状況の中でこの3つの案のそれぞれの特徴、性質をとりまとめたう えで、これから具体的な議論に入ることになるわけです。私も審査員の一人として私の印象を申しますと、3案選ばれたものについて、朝のインタビューを通し てもっとはっきりしてきたことは、今日、建築及び新しいタイプの施設に対して考えられる様々なアプローチがありますが、その3つの視点をそれぞれが代表し ている。この3つがどれがいいと言うよりも、それぞれ特徴の非常にはっきりしたものが3つ最後に残ってきたと思います。個別の性格については既に皆さんか ら説明があったわけですが、とりわけ建築的な問題から考えると、空間的に最も新しい考え方で組み立て直そうとしているのはおそらく82であろうと思います し、今日の建築のアプローチの中でどちらかというと新しい事実をソフィスケートする事によって新しいデザインの方向を探していくという、この技術的な チェッ クその他を含めて非常に洗練された案として161はあります。168はむしろそれと対照的にそれぞれのスペースを具体的に、大げさに言いますと2番目の案 が全部が基本的にユニバーサルで抽象的な空間で、どんな風にも考えられるという枠組みを提案しているのに対して、168はある程度考えられた中身を一つの 物語に組み立て直して、その物語が自分自身の物語の空間であると同時に、それが都市に向かってあるいは周辺の環境に向かって、それぞれ応答して、別な物語 が対話で組み立てられる様なそういうものの集合体というようなことを考えている、これは全く建築のデザインの方向付けとしては今日対照的な見え方であろう と思います。おそらくこの2つが両極で、82番が真ん中辺に両方の特徴を持って組み合わさっているという、そういう結果にこの3案がなってきているのでは ないかと思いました。これから後、今のような全体のご意見の分析と、それぞれの立場からのご発言を含めてもう少し突っ込んだディスカッションをしていきた いと思いますが、今までの所はわりと誉めていただいているので、それぞれの案の問題点、どこがとりわけ欠点であるかはっきり出してもらいたいと思い ます。山口さんいかがですか。
山口:都市もどんどん変わって行く中で、建物というのはある程度設備の内容は変わって行っても、あるいは利用形態が変わっても、基本的な形 とか基本的な素材とか基本的な使われ方は継続していくんじゃないかと思います。そうすると建物というのは生体学的に陳腐化していく、古くなっていく、全て の建築というのは、見ればこれは何年代のものとか、これはいつ頃の誰が作ったものかということが黙っていても身体で感じる部分があるんですね。そういうも のをどうするかとことももあるんじゃないかと。
磯崎:アートも似てるね。
山口:例えば82の場合はとにかくアクティビティーそのものをここで新しく、絶えず新陳代謝みたいなものをするらしいんですが。
磯崎:ですから、ファサードはどうでもいいと、大げさに言うと出たとこのまんまで、出たら出たでいいじゃないかと、そういう感じですね。
山口:それで、結局これが建って5年して、そのままの姿であそこにある訳ですね。そうするとそこに新鮮味が無くなってくるという気はするん です。それは82の場合一番感じるんですね。いくら子供達がボランティアを組織化してここでやって行くにしても、例えばボランティアにしても年をとってい くと次の世代の人に代わっていくと、そうするとこれからの時代というのは、果たしてこの仙台の中でそれだけこのメディアテークにボランティアで熱心にやっ ていく人間がいるかと、ある部分は基本的な職員がいて、それできちんと守って行かなくちゃならないと言うところが問題がかなりあるんじゃないかと。伊東さ んの作品の場合も建築空間として出来たときは一番きれいだと思うんですが、やがて少しずつ陳腐化していく恐れはある。そういうものをどう解していくかとい うことが伊東さんの場合も一番の問題で、使われ方はわりと楽観的に僕は考えているんです。というのは多分メディアテークに関しても全てそうなんですが、東 京に出来た新しい美術館、小さな美術館ですが、最初はCDをやろうとCDのワークショップを作ったんです。ところがあっと言う間にそのCDそのものの性能 が古く なって、そこでやる人もいなくなってくるんですね。すごくメディアの持っているライフサイクルというのは短いと、それと同時にそういうものを利用するライ フサイクルも短くなってくる。そうするとあんまり初期に投資して作品をコレクションするように器材とかをコレクションしていくと危ない。むしろレンタルで 絶えず変えていくというようなサイクルで運営していかないと危ないという気がするんです。168も同じような運命を担っていて、ただ168は、ファサード というか外装は別にして、中は割に読める形になっているんです。だから読める形はそのまま置いておいて、それをうまく使って行けば割に長持ちするかなとい う気がします。
月尾:仮に僕が応募したとすると、応募要項を読むと一生懸命情報のことを考えて、どちらかというと古谷案に近いような案を 出すと思うんですね。例えば伊東案のようなものが選ばれたとすると、どういう印象を持つかというと、何だ結局建築とか情報とか色々言いながら、やっぱりユ ニバーサルな空間を出した奴がいいのかと、何でも将来対応出来るから、建物として特徴はあるんだけれども、空間の機能としては単にコルビジェ以来のドミノ 理論を少し変えた程度のものを選んだのかというような印象を持つだろうと思うんですね。その辺りに対してどう答えるかということを考えないと伊東案は選び にくいという感じはするんですね。
磯崎:厳しい所になってきたね、藤森さんは何か意見ありますか。
藤森:古谷案は情報化社会の未来みたいな話と関係しているんですけど、最終的にはよく分からないって感じがあるんですね。具体的に情報化、 メディアが入ったことが、どういうものを作り上げるのかよく分からないということが実はある。さっき言われたようにグルグル変わってしまうということがあ る。そうすると何か頼りになるのは人の体だけみたいな、人が歩いて何かに接してやっていくという、最終的には人の肉体だけがいわば変わり得ないものだか ら、頭の中は変わるけど、身体だけはサルと大差ない状態は続いていて、僕は情報化の問題というのは基本的に良く分からないものだから、ギリギリ行くと自分 の肉体だけが元気だという考えがちょっとありまして、本当にもしご説明のように人がグルグル中を動き回るとすると、著しい不快感を持つのではないかという 気がちょっとしました。言ってみれば、行く先々で命令されるような感じで辛いものがあるなという感じがしました。もう一つが、街の中に建つということにあ まり視覚的に興味を持っていないように思える。時間が無かったと言っておられたけれど、ふつうの意味で街の中に建つものはきれいでなくちゃいけない。視覚 的に感動 なり、惹きつけるものがなくちゃいけない。そこをあまり考えていない、説明でも全然無かったですからね。伊東案については、定禅寺通りであのファサードは 見えないだろう。夏になるとけやきが屋根みたいになっていますから、並木であれはむしろ見えなくて、伊東さんのアイディアはインテリア表現上でどれだけ生 かせるかということが一番課題だろうと思います。それは大分知恵を絞らなければいけないんじゃないか。光が落ちてくるのに、充分広いと設計者は言っていま したが、プリズム載せたりレンズやったりしたと言うことは、光量が著しく足りないということに違いないんですよね。それは相当あれはイメージ上の美しさが 売りになっています から、それを実現するには結構細かい工夫が必要でしょう。田島案は中と外が関係しないっていうのは担当者が違っていたからかな。例えば中は、メディアはオ タク的にやってるでしょ。それと外のソフトタッチの自然素材使ったやつの間を僕等に対して言いくるめると思ったが、余りそれもやっていない。けっこうあれ は分裂を感じた。
磯崎:分裂か、3人ともあがってうまく表現できなかったのか。
月尾:今、藤森さんが言ったことで言えば、古谷案も中をどんどん再編成し直せば極端に言えばこの層は全部図書館とかにも変えられる訳だよ ね。一方伊東案でも逆に言えば、そういう案のように中身を出来ると言うことにはなっちゃう訳だよね。そうすると、コンペのこういう要項を出したことに対し て一応答えた案と、答えなかった案とをどうするかということ。最終的には、使い勝手が色々あるにしても、同じような仕組みの建物には出来ると思う。これは ちょっと難しい面もあるけれど、特にこの2つはある意味で空間がユニバーサルに作ってあるからできるんだけど、それに対して一歩つっこんで考えた案と、要 は綺麗な空間で何でも使って下さいという案とコンペの応募要領に照らして比較するときどうかなという感じがする。
磯崎:おそらく伊東案のトリックがあるとすれば、3方のエレベーションを書いていない、作ってない点ですね。あれは恐らくこの古谷案と同じ 状態が3方に出現する、このプランを見ると、大体分かりますね。それを完全に透明性ということにビジュアルを絞って提案模型が出来ているので、あの印象は 藤森さんがおっしゃるように前から見えるということだけではなくて、恐らくあの3面は別な扱いにせざるを得なくなるだろうから、この印象とは違う、ファ サードだけはやってあるという風に読んだ方がリアリティーがあるんじゃないかという気はします。
月尾:彼のさっきの説明でもそう言ってましたね。横は腰壁位までソリッドな壁でもいいんだと。
磯崎:実際に街からそれぞれアプローチしていく中の特定のスペースが実際問題として使う側、見る側に対して、置かれ方、配列のされ方は違う 訳ですね。そこら辺の関係において、都市性というか、市民との関係というか、建築がそういう観点で見えていった場合に、菅野さんはこの3点どういう解釈を されますか。
菅野:古谷案はファサードがないという話だったんですが、何ともその美しく見えないという、ダイヤグラムを空間化したというもので、果たし て建築なんだろうか。確かに新しい建築型の何かを感じることは出来ますけれども、それが果たしてこのメディアテークの正しいあり方なのか、誰もなかなか今 の時点で判定するのは困難ですけれども、あくまでも仮設のような、そういうものを提示していることで、それに多くのお金をかけられるんであろうかという心 配が1つある。
磯崎:古谷さんの模型、木の模型台がつく側がファサードなんだけど、そこはちょっとはデザインしてますね。
月尾:伊東さんの模型で西側をわざわざ模型にまで作ってあけてあるのは何か意図があるんですか。西側の敷地まで作って何も置いてないんだけど。
磯崎:西側は高い建物と低い建物、どういう関係になってましたかね。西側の方は建て代わる計画がありましたかね。
社会教育課長:ビル計画等があるようです。
磯崎:東側の方は、道路を挟んで大体出来上がってますよね。
菅野:あれも再開発の計画があります。夏場はけやきの葉で見えませんが、葉が落ちた今頃は良く見えます。
月尾:前側だけで言うと、リンカーンセンターのコンサートホールの印象があるね。
磯崎:さっきの指摘の中で、それぞれインフォメーションセンターが2階にあると、1階からそこまで行くアクセスが問題のものもあるのではな いかというご指摘なんですが、田島案はスロープで上がってるんですね。伊東さんのは今の所エレベーターか階段しかないんですね。古谷さんのはどう動いてい くのか読めないんだけど、どうなってますか。
月尾:必要な所にいくらでも階段付けるそうです。基本的にはエレベーター2本あるけれども、必要な所に穴をあけてつなぎぐという考えです。 伊東案で、1日何千人もの人をあのシステムで運べないという時に、エスカレーターをつけるというのはあの45センチ位のスラブでは出来ないですかね。構造 を少し補強するなり変えなくちゃならないんですか。
磯崎:それをちょっと質問はしたのですが、何とかシンメトリーでバランスさえ取れていれば可能性があると言っていた。
月尾:穴はあけられるけど、エスカレーターの重さを支えられるんですかね。
磯崎:これはポンピドーセンターのように外にエスカレーターか何かを付ければいいし、それが付かないとすると、アクセスがしにくいというこ とは起こりますね。現実問題として、エスカレーターの時間当たりの輸送力と、エレベーターというのは1桁違いますからね。そうすると、エレベーターだけで 数千人という規模はきついですね。もうひとつは、構造的には色々考えられるでしょうが、インスタレーションで、彫刻の展覧会なんていうことになってくる と、何トンなんて言うスケールの作品が持ち込まれるのは常識になってきている。それを最上階に伊東案は持っている訳ですけれども、それの運び上げや床の耐 力については、今のままではチェックは不足しているんじゃないかという印象はあります。書架1トンですよね。
月尾:ギャラリーは最大3トン。
磯崎:結局重いのが上に上がっちゃってる。つまり全体を出来るだけ軽くしてシャープに収めたいという意図があるんで、スラブの厚みなんかも 非常に気にして、特殊な工法を使っているんだと思うんですけど、そういう点で古谷案はごくコンベンショナルなスラブで、構造の分布のさせ方次第でそういう 物理的な問題はなんとかなるとは思いますが、このファサードで見るように、出来るだけゴチャゴチャに見える方がいいとそういうデザインの意図は明瞭にある んですね。
山口:錯乱させるね。
菅野:一つつまんないことが気になってるんですけれども、要項違反ということで、田島さんのグループには申し上げた訳ですけど、最初の古谷さんも面積が当初のものはオーバーしてるんですね。21500m2それを800m2ほどオーバーしていて、それが今日は訂正された物が差し代わって出ているという。通常のコンペですと相当要項違反、大事な要項ですので面積とか、あるいは締め切りとか、そういうことに対して問題にならないという風な判断を下していいのかどうか。
磯崎:そういう意味で言うと斜線にも引っかかって来るという問題もありましたね。その辺と同じで修正可能と見ていくか、面積オーバーも調整可能と見ていくかという判断ですね。そのオーバーの規模が800m2というと何パーセント?4~5%ね。そこら辺は普通大体やってると10%くらい上下があるのが、ある所でだんだん収めていくっていうのが普通で、たまたまオーバーで時間切れってそういう感じだったんじゃないですか。
菅野:実際は申告した面積でクリアしてるとかしてないとか言ってますので、それ自体が問題にすれば大変な問題になる訳なんですけど。

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