メディアテーク運営協議会報告書
2.事業的側面

現状での課題

メディアテークの事業は、仙台市から受託しているイ)情報サービス事業(①ライブラリー資料収集・整理・提供(映像音響、美術文化、視聴覚教材、地域映像、視聴覚障害者情報)、②デジタルアーカイブ(地域文化情報、smt事業、smtウエブ)、③活動支援事業(スキルアップ、シニア支援、バリアフリー支援等))、補助事業等を中心とするロ)自主事業(①展覧会等総合事業(せんだいアートアニュアル、せんだいデザインリーグ等)、②映像上映事業(仙台短編映画祭、インディーズフィルムシアター等)、③ワークショップ・講座・講演等事業、④バリアフリー事業、⑤メディアテーク活用推進事業(オープンカフェ等))の二つから成り立っているが、実質的には市直営のハ)図書館事業を加えた、三本の柱で構成されると考えて良い。

過去の調査や職員の自己評価からは、個別には優れた事業として認められている物も多く、全体に対する好意的な評価も読みとれる。しかし、多領域にまたがって幅広く展開されている割には分野間の相乗効果はあまり発揮されておらず、具体的なイメージも今ひとつ分かりにくいとする声も多い。さらには年間100万人という驚異的な集客力を持つにかかわらず、それらの人々をコアなユーザーとして十分に取り込めてもいない。これらを具体的な問題領域として設定し直すと、1)多領域を統合する戦略とそれを実装する方策の不在、2)そうした新しいイメージを市民に理解してもらうための情報収集と広報・アウトリーチ施策の不足、3) 1)や2)を施設全体の創造的な競争力に持続的に転換していくための仕組みの不足、の三層が析出される。以下、それぞれについて述べる。

1)多領域性のメリット化

①戦略

市の委託・自主事業・図書館といった枠組みとさまざまに展開している各事業は、ちょうど縦串と横串のような関係で複雑に絡み合っており、全体像を理解するのは極めて困難である。こういった問題を解消するため先の三箇条につなげる形で、分かりやすい戦略を掲げることが必要であろう。事業のまとまり毎にプロのディレクターを雇用する戦略もあり得るが、メディアテークの広領域性を考えると第一線級の人材によるアドバイザリーボードアドバイザリーボード外部の有識者による意見を取り入れ、事業運営の妥当性を高めるための会議。の設定とそこを介したマニュフェストのような展開が有効と思われる。

②事業連携

相互の連携は多岐にわたるがメディアテークが直面している大きな領域として、ここでは学校教育と図書館について特筆しておく。

学校教育との連携

「子どもの居場所づくり事業」等を通してメディアテークと関わりのある学校もあるが、学校教育課程とのつながりはやや停滞している。学校側がメディアテークに対してメディアリテラシー教育メディアリテラシー教育 メディアの特性や利用方法を理解し活用する能力を得るための教育。における物的・人的資源に高い期待を持っているのに対し、メディアテーク側の要望を受け止めるルートが十分でなく、学校側が依頼しづらい状況もあるようだ。子供と先端テクノロジーの共存に関するプログラムへの潜在的需要は高く、学校教育ニーズを開拓しうる人的なネットワークの構築には大きな意味があり、今後の展開が期待される。

また、近年深刻化する子供たち自身や社会の問題状況に対し、メディアテークが何を果たしうるかについても検討・開発していかねばならない。

図書館との連携

市民図書館については、建設当時は図書館法や他館とのネットワークの問題により外部委託出来ずにメディアテークと別運営とされた事情があるが、未だ同一施設内にあるメリットがきちんと生かされていない。アーカイブ事業やリテラシー開発事業における図書館の関与には大きな相乗効果があることは明らかであり、制度の柔軟な運用による今後の開発が望まれる。

2)情報収集と広報・アウトリーチ

①戦略性をもった広報

情報宣伝に関してメディアテークは、これまでどちらかというと来てもらうのを待つ姿勢が多かったように思われる。今後は「せんだいメディアテーク」というブランドイメージの価値を移り変わる時代の中でどうやって保っていくべきかを考えるイメージ戦略が重要となってくる。

②ワークショップの記録と活用

ワークショップ活動は開館時からメディアテークの事業の柱のひとつであり、これまでも大きな役割を果たしてきた。数は少ないが大きな達成感を残すワークショップは、施設利用者の中でもコアユーザーとして、そのあと期待できる層でもある。しかし、そのアフターケアは今まで十分だったとは言い難い。事業毎バラバラになっている参加者管理を一元的にフォローアップすることなども考えるべきであろう。また、プロセス自体が内容であり成果であるワークショップをどのように記録し、再利用するかについても真剣な検討が求められている。

③アウトリーチ活動

学校や関係の施設・イベントなどの潜在的な施設利用者のいるところに積極的に出る「アウトリーチ」活動は、美術館などではすでに一般化しつつある。これはメディアテークが掲げる「バリアフリー」の理念に合致するのみならず、公共性も極めて高い。新たなユーザー層や使い方の開発にもつながる手法であり、明確に位置づけた上で、今後発展させていくことが期待される。また、バリアフリーサービスのように現在利用が少ないものについては、スタッフが外に出て調査を行い、利用者開拓や数値目標設定を行うことを検討すべきであろう。

3)創造的な持続サイクル

①顔となる事業(キラーコンテンツ)の育成

顔となる事業を持つことは、施設の発信力の向上に何よりも有効である。それゆえ、定禅寺ストリートジャズフェスティバル光のページェントといった仙台市の名物イベントへの関与をより強くし、その発信基地としての事業効果を発信していく効果は大きい。また、建築分野ではすでに「せんだいデザインリーグ」が卒業設計の甲子園として全国的に高い評価を受けているが、その他の領域では全国的と言われるものは意外と少ない。顔となっている事業の競争力を維持する一方で、全国的な事業を他領域においても作りあげていくことが重要であろう。

②フィードバック

適切な事業展開のためには自ら行った事業の効果がどうであったのかを適時継続的なチェックと評価を行い、現場に適切なフィードバックを返していくことが重要である。メディアテークでは、平成14年度から「せんだいメディアテーク来館者調査」を研究者に委託して実施し、来館者の数と属性、館内行動等の基本的情報を収集している。この調査では来館者が活動状況によって5類型に区分されるなどの知見も得られており、今後は事業毎のユーザー満足度調査の実施も視野に入れているようだ。しかし事業効果の判定にはそうした利用者評価に加えて、専門領域でどの程度のインパクトを与えたのかを判断に加える必要がある。有識者からの意見聴取や後述のアドバイザリーボードによる評価なども並行して行っていくべきであろう。

③場としての機能:居場所としてのメディアテーク

現代社会の課題の一つに、自信を喪失した若者による引きこもりや人間関係構築の放棄などが挙げられる。多様なチャンネルをもつメディアテークは、学校教育との連携にとどまらず、若年層の社会参加のあり方等の問題に独自の形で貢献できるかもしれない。こうした領域における貢献の在り方についても今後、検討・開発していく必要があろう。

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せんだいメディアテーク
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