景観 もとの島

 日常的に「〜系の人」などと耳にすることがあります。文系、理系、免疫系、体育会系、外資系、アキバ系、神経系、出会い系、複雑系…。これらの系という言葉は特定の性質によるまとまりとして理解されてます。私たちは様々な性質を持ったこのような「系」で構成された社会の中で、それぞれに属し、関わり合いながら暮らしてるといえるでしょう。系は、行動のプロセスであり、経験の記憶です。それは私たちをとりまく(世界についての)情報のシステムなのです。
 しかし私たちは、自らが関係していない別の系を意識することは勿論、自分自身が関わっている系ですら理解することは難しいのではないでしょうか。そんな中で、もし仮に、様々な情報のシステムをヴォリュームとして捉え、イメージすることが可能だとしたら、漠とした系に形が生まれ、視覚的に認識することができるかもしれません。それによって自分をとりまく系の存在と、それら系同士の関わり方、更には、広大な系の集合である私たちの世界の景観が見渡せるのではないでしょうか。景観(Landscape)とは、見た目の景色という意味だけでなく、群集生態学における生態系の集合体としての意味を表しているのです。
 宮城県牡鹿半島の沖にある島、金華山。周囲26キロからなるこの島は、古来より霊島とされ、1200年余の歴史を待つ金華山黄金山神社があります。金華山は、この神社以外は基本的に無人で、猿や鹿が群を作って生息し、植物は猿や鹿に補食されないよう独自の形態へと変化しています。金華山の生態系は、周辺の地域とは異なる独自の性質を持ち、様々な大学や研究者によって調査研究が行われていました。
 この展覧会「景観−もとの島」は、この希有な島、金華山をモチーフとして取り上げ、系を視覚化する足がかりとしつつ、関口敦仁、中原浩大、高嶺格の3名のアーティストが、日常とは異なる側面からさまざまな社会の系、或いは作家自身を含むかもしれない存在の系を「かたち」として表現します。そして、人間の生活に留まらず、動物や植物も含めた、多様な系に見られる細部のイメージと、私たちの景観の全体的なヴォリュームの関係性を視覚化します。

※景観 Landscape
物質や生物の移動がある複数の生態系の集合体、個体<個体群<群衆<生態系<景観という階層構造にある。

階層構造