基本情報 2016年09月20日更新

開催趣旨


写真家・畠山直哉は、1980年代から石灰石鉱山や工場、都市のビル群や地下空間などのシリーズを発表し続けてきました。そこには、私たちが普段は見ることのできない場所の、壮大でときには畏怖を感じさせるような光景が写し出されています。また、2011年の震災以降、故郷の陸前高田を撮影し続ける姿勢には、大きな変化を強いられた東北地方やこの国が共有できる課題が多く潜んでいます。

畠山は「もの」あるいは「事象」に目を凝らします。それが人為的なものであれ自然の営為であれ、起源を問い直すかのように静かに見つめ、作品として結晶化し、わたしたちの社会、文明、そして生に対する開かれた「問い」として投げかけてきました。本展では、その問いかけにこそ着目したいと思います。

本展タイトル「まっぷたつの風景」は、イタロ・カルヴィーノ『まっぷたつの子爵』から採られました。畠山自身も愛するこの寓話は、物事にすぐ白黒をつけようとしたがる私たちに、注意を促します。たとえば、私たちは誰でも善悪や美醜など二つの面を持っているのに、他人に対してはその一方だけしか見ようとしないところがあります。物事を無理矢理まっぷたつに分けてしまえば、物事は成り立たなくなってしまうのにです。本展では、これと同じことが「風景に対しても言える」という仮説のもとに展示を構成します。

「風景は、ただそこにあったものではなく、人間が歌を詠んだり絵にしたり写真を撮ったりするたびに、新しく生まれている」と畠山は主張します。人の表現に応じて「風景」は生まれ、美しさや残酷さ、不思議さや不条理さといったものとして、その都度新しい姿を現すというのです。震災以降、変貌する故郷を撮影し続けてきた畠山の「風景」には、過去からの大きな断絶が見て取れますが、同時にそこに、「風景」の持つ二面性や両義性、未来の「風景」への気配を感じ取ることができるかもしれません。

初期から現在まで約200点の作品群と対話の場を通じて、畠山直哉という一人の写真家が取り組む「風景」が、現在の私たちの社会にとって、どのような意味を持つのかを考える機会となればと思います。

 

 

畠山直哉(はたけやま・なおや) 略歴
写真家。1958年岩手県陸前高田市生まれ。筑波大学芸術専門学群にて戦後前衛芸術集団「実験工房」のメンバーであった大辻清司や山口勝弘に薫陶を受ける。1984年に同大学院芸術研究科修士課程修了。以後東京を拠点に活動を行い、自然・都市・写真のかかわり合いに主眼をおいた一連の作品を制作する。石灰石鉱山の連作と、東京の建築空間や水路を被写体にした作品群で注目を集め、1997年第22回木村伊兵衛写真賞、2001年第42回毎日芸術賞、2012年芸術選奨文部科学大臣賞などを受賞。国内外で個展、グループ展に多数参加し、2001年にはヴェニス・ビエンナーレ日本代表の一人に選出されている。また2012年には、ヴェニス・ビエンナーレ国際建築展の日本館展示に参加し、館はその年の金獅子賞を受賞した。作品はTATE(ロンドン)、MoMA(ニューヨーク)、東京国立近代美術館をはじめとする、主要都市の美術館に収蔵されている。2011年の東日本大震災以降は、故郷の風景を扱った作品の発表や、震災関連の発言を積極的に行っている。


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