報告 2017年02月10日更新

細倉を記録した寺崎英子の写真アーカイブ:第2回活動レポート


ブログを更新しないまま時間が過ぎてしまったのですが、とても残念なお知らせを初めにしなければなりません。

昨年5月、寺崎英子さんが逝去されました。私がその事を知ったのが同年9月の初めでした。しばらくまえから、連絡をしようと思いつつ延び延びになり、思い立って電話したのですが繋がらないので、嫌な予感がして数日後に改めて電話したところ、姪御さんが出られてすでに5月に亡くなられたということでした。


▲寺崎英子(撮影者不詳)

忙しさを理由に、寺崎さんからの依頼を後回しにしてしまった事を、とても後悔しています。せめて、写真集出版の今後の道筋を伝えて、「必ずできます」と伝えるべきだったと思っています。寺崎さんご本人にも、ご協力いただいている方々にも、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。この日は本当に偶然、姪御さんが寺崎さんの家に風を通しに来ていたために連絡がついたのですが、以前から一人暮らしをしていた寺崎さんとだけのやり取りしかしていなかったため、全く知る事なく過ぎてしまいました。

すぐに姪御さんのお父さん(英子さんの弟さん)に連絡を取り、今後について相談し、秋田在住のもう一人の弟さんとも電話でお話しさせていただき、寺崎さんの残した写真のアーカイブと写真集出版について承諾いただきました。

ご本人が亡くなられてしまった事で、失われてしまったものは計り知れないのですが、残された写真をなんとか多くの方々に見ていただけるものにしていきたいと思っています。

いよいよ膨大なネガのスキャン作業に入りました。今回の作業のために、メディアテークのプロジェクトルームをお借りしたのは年末年始にかけての5日間。

同じくメディアテークからお借りした3台のPCと、3台のフラットベットスキャナー体制で、のべ4名の方(その内一人は東京から!)にお手伝いいただきました。さて、その作業ですが、なるべく高画質でアーカイブしたいということもあって、取り込みの時間がかかる事は覚悟していたのですが、それ以外にも難題がありました。

寺崎さんはどこかで写真を教わったわけではなく、全く一人でカメラを購入し、撮り始めたそうです。私にも経験がありますが、「自分のしている事は間違っていないだろうか。」、「この方法で続けていいのだろうか」と不安だったと、当時お話しされていました。そこで、細倉鉱山を取材に訪れた新聞記者をつかまえては、わからない事をいろいろ聞いていたということでした。

中でも、当時の朝日新聞仙台支局の記者が、親身になって相談にのってくれたらしく、モノクロのフィルム現像処理(ネガ現像のみ、プリントは無し)を、無償で引き受けてくれたのだそうです。

撮影を始めた1980年代半ばは、既に世の中の写真はカラー写真が当たり前の時代になっていましたので、寺崎さんがなぜモノクロで写真を撮り始めたのかは未だにわからないままですが、ともあれ、現像を引き受けてくれる人が現れたのは、その後の撮影に弾みがついたのではないかと思われます。

余談ですが、昨年、岐阜のダムに沈んだ村を写真で記録し続けた増山たづ子さんと親交のあった方にその話しをしたところ、増山さんも同じように取材に訪れた記者に、写真について質問責めしていたという事でした。

話が前後しますが、スキャンする上での難題は、その新聞社で現像したネガにあります。

モノクロフィルムはその頃、12、24、36枚撮りの三種類があって、当初寺崎さんは24枚撮りのフィルムを使用していました。通常、現像済みのフィルムは6カットずつに分けて、24枚撮りなら4段+端数(24枚撮りでも25枚ぐらい撮影できるため)の計5段のネガシートに収めます。

スキャナーのホルダーは3段(18カット)ずつネガをセットするように作られていますので、24枚撮りならホルダー2回分で一本分のネガが終了する計算なのですが、何と新聞社のネガシートは4カットずつ計7段の特別な仕様なのでした。つまり、ホルダーに三回セットしないと、終了しないということになります。


▲左が新聞社で現像した特別な仕様のネガーシート、右が通常のネガシート。

1本のネガにおおよそ一時間半の時間をかけてスキャン。気の長い作業ですが、それでも、出てくる画像の時代の空気感に釘付けになる事もしばしばで、作業を忘れて見入ってしまいました。寺崎さんのとても粘り強い目線に、皆で敬服です。

特別な仕様のネガシートは30本ほど、おそらく現像を引き受けてくれていた記者の転勤で、ネガは途中から通常の6カットになりました。

今回、スキャン済みのネガについては、劣化の始まっていた古いネガシートから新しいネガシートに入れ替え、ネガファイルに保存する事にしました。古いシートは、当時寺崎さんがプリント注文した○印が記入されていたりするため、別途保管する事にしました。

5日間の成果は86本。まだまだ先は長いですが、30年前の寺崎さんの目線に出会える楽しみは、細倉や寺崎さんを知らない方とも共有できるものと思っています。


まずはモノクロネガ246本の全スキャンが目標です。

文・小岩 勉


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