バリアフリー通信号外 Dialog in the Dark 報告・アテンドの目から 昨年10月21日から10日間にわたって開催された「Dialog in the Dark」(ダイアログ・イン・ザ・ダーク、以下DID)は、日常生活のさまざまな環境を織り込んだまっくらな空間を視覚以外の感覚を使って体験する新しいスタイルの展覧会。 参加者のかたがたを暗闇の世界に案内する「アテンド」として、目の不自由なかたがこのイベントにスタッフとして参加しました。 バリアフリー通信号外では、アテンドのかたがたの声を中心にDIDを振り返ります。 まず東京在住のミュージシャンで、神戸、東京などで行われたDIDに参加し、今回のアテンド指導をしていただいた松村道生さんのお話です。 目を開いてもらうために 松村道生  DIDでアテンドするときには、こちら側では特定の趣旨を用意したりはしません。DIDを体験されたかたがたが、それぞれに感じたままに感じて帰っていただければと思っています。開催する側(やアテンドする側)が特定の趣旨や希望を持った時点で、参加者はどうしてもそのように誘導された体験をするわけで、感想も主催者側の意図を出にくくなるのではと思うのです。  最初にアテンドのかたにお会いするとほぼ必ずといっていいほど、DIDを障害者理解のためのイベントだと思っているかたがいます。そして、自分ではそうと気づかなくても「私たちのことをわかってぇ」という潜在的な思いが出てしまっているかたもいます。  アテンド役のかたがたに研修をしたときには、このようなことをお話しした上で「特定の意見や希望や趣旨や目的を持たないでください。でないと、参加者が抱く感想が、僕たちが定義した趣旨を出られなくなります。趣旨はあくまで『暗闇を体験する』ことだけです。特に障害者理解にはならないようにしてください。」ということをお話ししました。  このイベントには「DIALOG」という言葉が含まれているので、イベントを体験した後に(あるいは体験しながら)、何らかの対話が行われればいいなぁ、と思っています。コース終了後の「薄明かりの部屋」で、前回までなら、みんなで意見を交換するのが対話だと思っていましたが、画用紙に向かい無心に絵を描く人たち(が今回多かった)を見ていて、「あっ、これも自分自身との『対話』なんだなぁ」と気づきました。このような、他人や自分自身との対話の中で、みんなが何かを感じたり見つけたりできるのがDIDなんでしょうね。  DIDを体験されたかたが、毎日の生活の中には、視覚以外にもさまざまな感覚や情報があふれているんだということに、ほんの少しでも気づいていただければと思って、私はアテンドをしています。目を閉じてみれば、見えないものが見えるはずです。 出会いに感謝 ―アテンドの皆さんの言葉― 伊敷政英(いしき まさひで)さん 松村に誘われて7月頃から(DIDについて)話をさせてもらっていましたが、実際10日間やってみると、もう終わりなのかと寂しい感じがちょっとしましたね。お客さんともそうですし、アテンドのかたとかスタッフ、ボランティア、アルバイトのかた、それからメディアテークの職員のかたがたとかいろんな出会いがあって、僕自身すごい楽しかったです。 梶原正晴さん この話を聞いたときほんとに面白いイベントだなあと感じて応募したんですけれども、やっぱりいざやってみるとなかなか...なんといいますかね、緊張して思うようにいかなかったっていうか...失敗もあったように思います。  スタッフが皆さん若いかたで...いろんな出会いがあってとても有意義な期間だったと思います。どうもありがとうございました。 菊地理一郎さん とても楽しく... ガイドをするのもバーテンをするのも(注)とても楽しくやることができました。いろんなかたと出会えたのも楽しかったし、その中でいろんなことを言ってくれる人がたくさんいたので参考になる部分も多くありました。 (注)アテンドには参加者を案内するガイド役と、バーの部屋で飲み物をサービスするバーテン役がある。 白石真美さん (アテンドをやらないかと)声をかけてもらってありがたかったなと思います。正直いってこの企画がなかったら、私、まだひとりで歩いてたかどうかわからなかった...。だから自分にとってもいい機会で、ひとりで歩くきっかけになりました。若いかたのエネルギーといいますか価値観、自分の知っている障害者のかたばかりじゃなくて、松村さんとか松川さんとか、全盲でありながらあそこまでできるっていうすばらしさに触れて、自分ももっとやっていかなきゃいけないなって思いました。皆さんに感謝しています。 鈴木清子さん こういう機会をいただいてとてもうれしかったです。始まるまでとっても楽しみでした。始まってからは1回ごとに感想の部屋でいろんなことを伺って、次に工夫していくっていうのが勉強にもなったし楽しかったし、それにまた反応が来るとうれしいんですよね。1回ごとにどんどんどんどん内容が変わっていったことに満足しています。人に向かってお話をするのは苦手だったし、あまりそういう機会もありませんでしたけれど、ほんとに楽しくって、だんだん自然のままにできるようになったかなっていう気がしております。 谷口みつはるさん 若干不満な点を最初に言わせてもらえれば、音が迫力に欠けたんじゃないかなあと・・・。今後もしこういう企画があったら、もうちょっと聴覚を使うことに力をいれて欲しいというのが希望です。  皆さんの控室でのお話から、同じ視覚障害者であってもいろいろなものの見方、角度があり、勉強にもなりました。 思ったより参加者が多く、私たちもやっててよかったと思ってます。 松川恵理子さん 一番意外だったことは、参加者の人たちがいろんなものをいかに目で理解しているかということです。それからそれにイコールという形になるんでしょうけど、我々が目じゃないものでいろんなものを把握しているということを、参加者のかたたちが感じていかれたようだったというのが、私にとっては新鮮な驚きであり、そしてまた喜びでもあったように思います。  ここの皆さんとの出会いというのがすごく大きくて、普段なかなか出会う機会がない皆さんと出会えて、こういう変わった疑似体験型展示というイベントをさせていただいたことは私にとっても勉強になりましたし、いろんな意味で栄養になったと思います。 この他に、大瀧マリさん(残念ながら体調を崩され研修会のみの参加)、岸田まさこさん(東京から参加)、小林さおりさん(筑波から参加)、松川瑠璃子さんが加わりました。 暗闇...対話 ―参加者アンケートより― 初めは目が見えないことの疑似体験的なものと思っていましたが、それは全く違うもので、「見えない」というよりはむしろ「感じる」ものでした。 (男性) 印象的だったのは、相手とのコミュニケーションに声や触覚を使わずにはいられなくなり、自分がいつもよりずっとオープンでいることに気づいたこと。 (女性) 慣れてくるにつれ(これは今考えると「視覚がないことの慣れ」だけでなく「一緒に歩いているかたがたとの慣れ」もあったように思う)、その場がどんな様子になっているのかの想像ができるようになってくる過程(「見える」という感じでなく「なんとなくわかる」という不思議な感じ)が面白かった。人の声や手がこんなに優しくて安心感のあるものなのかと思った。 (女性) 暗闇の優しいところ、楽しいところを経験できる。暗闇の恐怖をいまだに知らずにいる自分はずるいと思った。(男性) 目に見えることによって先に感じてしまうマイナスの感情(高い<高いところがコワイので>とかキタナイとか)を、自由な想像で、自分の都合のいいように作り上げることができるのは、とても気持ちがよい。 (女性) 「ダイアログ」...とてもイイ言葉だと思います。「暗闇」という空間を通して、モノや人との「対話」が生まれる、ということが何よりもうれしく思いました。 (女性) DIDを終えて ―smt職員から― 学芸員 薄井真矢  毎回毎回同じ場所、同じ流れでDIDをおこなったにも関わらず、年齢や立場の違う参加者の組み合わせ(によっておこる会話の広がり)や、アテンドの演出により、100回の上演はそれぞれ異なる内容となりました。アテンドのかたは本職が司会業のプロというわけでなく(一人だけプロがいました)、演劇を学んでいるわけでもないのに、演劇的表現が豊かで、話しもうまく、個人個人が独自の世界を展示室内につくりあげていました。参加者は、五感を使い、またアテンドの言葉を非常に頼りに聞いてその場の状況を判断しますが、それを逆手にアテンドは、参加者を楽しませるための(実は「騙す」ための)しかけ―例えば、そこにないものもまるで存在するかのように表現するというようなこと―を考えているのです。中に何があるか知っている私でも、臨場感溢れるその舞台には時たま騙されそうになるほど。これら毎回の工夫は企画者側の楽しみでした。 バリアフリー担当 松岡忠志  暗闇の体験。スタッフ、参加者が様々な形でふれあう展覧会。スタッフの中でも、参加者の案内役をするアテンドのかた(目の不自由なみなさん)は事業の重要な役割を担います。  展覧会初日、アテンド控室には自分の役割を果たそうとする意気ごみがあります。1時間の案内役が終わると「ほっとする人」、「自信を失いかける人」がいました。アテンド同士、スタッフの中に自然に励ましなどの言葉が出てきて、控室に一体感が生まれ、10日間の全日程が終わると、誰かれなく「お疲れ」と声をかけ合う姿がありました。 「最後の方は参加者を楽しませるのではなく、一緒に楽しむことができた」、「参加者からいろんなことを教わった」と、人とのふれあいの満足感が疲労感をふきとばしていました。  主催者側としては、サポート体制が不十分だったため、アテンドのかたにかなりの負担をかけてしまったことの責任を痛感しています。 アテンド・ダイアリー 9月1日   ▲第1回DIDボランティア・アテンド企画・打ち合せ   ▲参加者一般公募開始 9月8日   ▲第2回DIDボランティア・アテンド企画・打ち合せ 10月19日・20日   ▲アテンド研修会   ▲ハイネッケ博士(DID提唱者)来館 10月21日   ▲DID初日 10月25日   ▲休館日 10月31日   ▲DID最終日