参加者の感想

中村ハルコさんの写真。私は以前にも見たことがあった。ハルコさんの『海からの贈り物』だ。お腹が大きくなった自分の姿、自分の身体から生命が誕生する瞬間の写真は衝撃的だったが、その世界観はとても綺麗だったように記憶している。
 いい写真だった。彼女についてもっと知りたかった。これからもずっと写真を撮り続け生きてほしかったと思っていた。今回はそんな想いでこのフォトゼミのお手伝いを買って出たのだ。
 当日、作品のスライド上映から始まった。前述の『海からの贈り物』は、自らの妊娠、出産の体験をもとに表現された彼女の代表的なシリーズであるが、スライドの数はそれほど多い数ではないが再び目にすることができた。次に映し出された『光の音』という作品はイタリア・トスカーナ地方で撮影されたもので、かなりの作品の枚数を見ることができ、素晴らしかった。それまで人を中心に撮っていたハルコさんが、イタリアのその景色を見て、初めて「風景」に恋をしたという。結婚後も何度もイタリアに飛び立ち、6年間その場所に通って撮影したというハルコさん。どの風景もとても美しく、ふりそそぐ光、そこに暮らす老夫婦や女の子のあたたかさ溢れる生活…その場所の空気や静けさまで伝わってくる素敵な写真ばかりだった。
 次のトークショーではハルコさんの想い出や人柄がそれまで親交のあった周囲の方々から語られた。イタリアでは、はかなさと同時にかけがえのない一瞬一瞬を大切にして撮っていたこと、言葉での表現は苦手で、きっと全部写真で表現しようとしていたこと、また私の中のイメージとは違ういろいろな一面を知ることが出来たが、改めてハルコさんはどんな気持ちでその瞬間シャッターを切っていたのだろうかと考えさせられることになった。
 どの写真からも、写真の一枚一枚に生命の火を灯し続け、ポジティブに生きるハルコさん自身が映し出されている。評論家の飯沢先生は「ハルコさんの写真はどれも上品ですね。そしてやはり写真家ですね」とおっしゃったが、その言葉は私の印象に残った。ハルコさんにとって、愛する家族と過ごす日々こそ、最もかけがえのない一瞬一瞬のシャッターチャンスだったのではないだろうか。トークの最後に未公開の家族の写真が上映された。まるでアルバムをめくっているようで、なんとも切なくなったがその時私は感じていた。ああ、ここに、こんな幸せがあったんだなあと。
 日常生活では、手にカメラがはえているかのように家族を撮り続けていた、というハルコさん。彼女がファインダーを通して表現したかったもの、それが多くの人々の心に届き、いつまでも記憶に残るかたちとなることを私は願ってやまない。

匿名希望