見過ごしてきたもの

これは、せんだいメディアテークの展覧会制作ワークショップ「コール&レスポンス」に参加した年齢も職業も全く異なる立場の者たちが、現在の仙台でどのような展覧会をするべきなのかについて対話し、企画したものです。私たちがその過程で確認したことは、社会と自らの関係について何らかの方法で「現状を変えたい」という切実な思いでした。そして、対話を進めるなかで、「本当は以前から自分自身の周りにあった問題を見過ごしてきた、あるいはあえて見ないようにしてきたのではないか」という疑問が立ち現れてきました。そのことに触れることができれば、自らと社会との関係をより豊かなものへと変えることができるかもしれません。
本展覧会では、日常生活において私たちが「見過ごしてきたもの」をテーマに臼井良平、加藤泉、坂口恭平、毛利悠子、LPACKの5組のアーティストの作品を展示します。坂口恭平は、暮らすこと、住むこととは何なのかという問題を土地に拘束されない家「モバイルハウス」によって提示します。絵や彫刻で表現される胎児のようなフォルムをした加藤泉の人物像は、自らの内面に置き忘れた記憶や体験を思い起こさせます。臼井良平は、道端に捨てられたペットボトルを再現するように描写し、私たちが気がつかなかった違和感として浮き彫りにします。毛利悠子は、ガラクタのようなささやかな日用品を空間にちりばめ、互いの接触などから発生する関係性によって、モノたちが新たな意味をもった存在へと変貌する様子を見せてくれます。さまざまな場所で「コーヒーのある風景」をつくりだしているLPACKは、コミュニケーションの現場における大切な作法を私たちに問いかけてきます。
以上の5組の作家の作品を通して浮かび上がる「見過ごしてきたもの」は、今の社会に生きる私たちに豊かな表情や示唆を与えてくれます。私たちはそれらをもう一度発見し、本展を見る人と共に私たちの内に根付かせたいと思います。