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はじめに

東日本大震災からの復旧と館の再開に全力をあげつつ、文化施設として震災に向き合う事業を立ち上げた前年度を承け、2012年度は、日々の活動が震災前のレベルに戻るなか、2年目となる「考えるテーブル」と「3がつ11にちをわすれないためにセンター」に引き続き取り組むとともに、震災によって中断していた展覧会事業にあらためて着手する1年となりました。

震災に向き合いながら人々が集い語り合う場としての「考えるテーブル」には、「てつがくカフェ」をはじめ「障がい者グラフィティ」「いま、貞山運河を考える」「支援のかたち」「定点観測写真アーカイブ・プロジェクト」など前年度から継続するものとともに、震災に直接関わらない「美術準備室」のような活動も加わりました。

また「3がつ11にちをわすれないためにセンター」では、取材・記録収集を中心とする活動から徐々に整理や公開のための作業にシフトしつつ、7月にはオランダ政府のご支援による英語版サイトの開設、随時記録映像の上映会をおこなうとともに、一部をDVDにまとめて館内で閲覧できるようにするなど、活用の可能性を広げるための取り組みも進めました。

私たちに新しい視点をもたらすアートに関する取り組みとしては、前年度立ち上げた「コールアンドレスポンス」事業の2年目として、「志賀理江子 螺旋海岸」と「〈展覧会〉見過ごしてきたもの」のふたつの展覧会をおこないました。市民協働によるアート事業の試みであるコールアンドレスポンスは、市民キュレータに応募した参加者が、志賀理江子の連続トークやキュレータによるレクチャー、さらに「志賀理江子 螺旋海岸」展を承けるかたちで、自ら展覧会を企画するというもので、それが「見過ごしてきたもの」展として結実しました。一方「志賀理江子 螺旋海岸」は、震災をはさみ4年にわたって名取市の北釜で暮らしながら制作してきた写真家志賀理江子の個展です。立て看板のように自立する巨大な写真を渦巻状に配置した会場は、被災地にしっかりと身を置きつつ、その向こう側を凝視し続けた作家の濃密な迫力に満ち、全国から訪れた入場者に大きな反響を呼ぶものとなりました。

出版では、メディアテークの機関誌として定着した「ミルフイユ05 技と術」に加え、地域の文化や活動の面白さを柔らかく掘り起こすフリーペーパー「ニューせんだいノート」「ニューニューせんだいノート」を発行し、全国からも配布希望が寄せられるなど高い評価を得ることができました。また仙台・宮城ミュージアムアライアンス(SMMA)として発行した「仙台ミュージアムクルーズMAP」も、仙台の見過ごされがちな文化の水脈を少しでも伝えられればとの思いで制作しています。

2011年の開館10周年をへて、次の10年を歩き始めようとしたまさにそのとき、メディアテークも千年に一度という災害に出会うことになりました。そこからの2年間は、私たちがなすべきことを根底から問い直す時間となったように思います。その問いかけは、答えを見いだせないままこれからも続くことになるでしょう。そのなかでメディアテークはこの得がたい体験を生かしながら、あらためて次の10年を歩き始めたいと考えています。

この年報を通じて、メディアテークの多面的な事業を全体としてご理解いただき、生涯学習の振興及び文化活動の支援に関心を寄せておられる多くの方々からご意見・ご指導をいただければ幸いです。