架空の郷土芸能つくりますワークショップ

村松ギヤ 春の祭典 —北海道版「架空の郷土芸能」の例

「村松ギヤ」は、明治中期まで北海道北東部一帯に居住していたと伝えられるロシア系先住民ギヤック族によって行われていた祭事と言われ、幕末期に北海道(当時の蝦夷地)で先住民族の現地調査を行っていた松前藩の村松勇作(幼名、勇太)の報告によって現在に伝えられている奇習である。 ギヤックの村では毎年欠かさず一月八日(現在の暦による)に、春を呼び寄せる行事としてこの「村松ギヤ」が行われていたと伝えられ、極寒の大地に生きる彼らにとって、それは死(=冬)からの再生、そして生命の誕生と躍動を象徴する最も重要な祭りであった。
円の中心に向かって並んだ一七人の女達の輪(大円)の内周を、歯車のようにかみ合わせながら回転しつつ移動する五人の男達の輪(小円)はそれぞれ、無限に広がる死の宇宙にぽっかりと形成された生の領域(大円)と、その大円に守られた小宇宙の中で束の間の生命を謳歌する人間や動物たち(小円)の様子を象徴しているものと言われ、それはギヤック人達の宇宙観を象徴的に表した、いわば変化し続ける曼陀羅だと評されている。

「村松ギヤ」の演奏法(村松勇作の記録による)

長老に選ばれた17人の女と5人の男がこの祭儀に参加する。女は等間隔に並んで輪を作り輪の中心に向って立つ。
すべての女と男はひとりひとりが最初にふたつの状態、「天」と「地」の状態のどちらかに決め、「天」の状態に決めた男女は右手を上げて天を示す。男達はそれぞれ、鈴を右手に、カスタネット(木片を打ち合わせる楽器)を左手に持ち、女達の輪の内側に小さな円を作り、その中のひとりの男だけが女達の輪の決めらたひとりの女と向かい合うように立つ。(内接する接点の男女)
女の輪(大円)に内接するこの男の輪(小円)にいる1組の男女(内接する接点の男女)は2人の状態によってそれぞれの状態を以下のように変える。

出会った時の状態 → 新しい状態
女=天 男=天 → 女=天 男=天
女=天 男=地 → 女=地 男=地
女=地 男=天 → 女=地 男=地
女=地 男=地 → 女=天 男=天

内接する接点の男女は互いの手を合わせて、新しい状態に従い「天」ならば鈴、「地」ならばカスタネットを1回一緒に打ち鳴らす。すぐに男の左隣の男が左隣にいる(女からみれば右隣の)女と一緒に同様の行為を行う。それらを順次いつまでも繰り返す。

残された記録によると、男達が受け持つ鈴とカスタネットの音の他に、女達はそれぞれが固有の音階音を受け持ち、「地」の状態になると(カスタネットを鳴らすと同時に)その音程を歌い、全体として女声合唱のような響きを生みだした、と村松は伝えているが現在、その詳細を知る手がかりは失われている。 「内接する接点の男女」の状態変化は一説によれば天と地(生と死の領域)の交感、和解、さらには男女の交合、或いは遺伝子の交換を表しているものだと言われ、実際にギアック族では一夫多妻制であったことが知られている。一見、多数の女性(この儀礼では男に対して三、四倍)の間を蝶が舞うように渡り歩く少数の男性の動きは現代人にとってあるいは非道徳的で面白おかしくも見えるが、それは厳しい大自然に生きる少数民族の日常、部族間の抗争はもとより後の大和民族の侵略まで続く村の恒常的な男性不足という民族の過酷な歴史を物語るものだという。

※これは「架空の伝承文化」です。