全館再開のお知らせ

せんだいメディアテーク



せんだいメディアテークをもっとよく知るためのさまざまな情報を、副館長の佐藤泰がお届けします。

65「ありあわせの奇跡」

たまたま冷蔵庫に入っているありあわせのものを使うことで、思いがけない料理ができることがあります。誤解を怖れずに言うなら、メディアテークもそんなありあわせから出発しました。ギャラリーや図書館、視聴覚教材ライブラリーや視聴覚障がい者情報提供など、いずれも市民にとって大切な役割を担うものですが、メディアテークのためにあえて選ばれたというより、交通局跡地利用による市街地活性化という課題の前に、たまたま懸案施設として「居合わせた」ものであったと言えるのです。ご存じのようにそれらにメディアテークという名が与えられ、設計競技を経て伊東豊雄氏の案が採用されるに及んで、ありあわせに奇跡が起き、一転して最先端のプロジェクトとして脚光を浴びることになりました。そんな経緯もあって、建築としてはすばらしいが、かんじんの中身は・・・という見方が根強く存在する面もあるのでしょう。
しかしその一方で、ありあわせのものたちも開館以来13年目を迎えてメディアテークとしての新しい機能を徐々に発揮し始めています。ギャラリーは現代アート、図書館はメディアやネットワーク、視聴覚教材センターは情報発信やアーカイブ、視聴覚障がい者情報提供はバリアフリー、市街地活性化は文化や市民活動の広場という視点をメディアテークにもたらしました。それらの成熟と相互作用が今や、建築としてのメディアテークを越えて、現在のメディアテーク事業の独自性を形成していることも忘れるわけにはいきません。
瞬時の奇跡には脆さがつきまといます。メディアテークの建築がもたらす「場」の力は、まさに奇跡によって生み出されましたが、その価値をより多くの人に伝えることで不用意に損なわれることを防ぎ、引き続きより豊かなものとして維持していくことは最大の使命であることはまちがいありません。そしてそのなかで、特別でないありあわせのものたちが、たっぷりの時間をかけて熟成し、底光りのするような奇跡を少しずつでも起こしていけるよう、見守っていくことができたらと思います。

(2013/01/04)


  • 館内を案内する赤いサイン
    館内を案内する赤いサイン

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