針生乾馬さんの個展を祝す

「将来、個展を開きたい」と語った乾馬さん。それから何年経ったろうか。 なかなか知らせが無いので、もう諦めたのかな、と思っていた矢先の今年五月初め、 「漸く個展を開きます」と弾んだ声が飛び込んで来た。やっと夢の実現である。 愛陶家の一人として誠に喜ばしいことである。
乾馬さんはみちのくの名陶「堤焼」の継承者である。その「堤焼」の人形は、かつて京人形、博多人形と共に、 わが国三大土人形の一つとして風靡したが、「堤焼」はもともと日用雑器として生まれ、大甕などをたくさん焼いたものである。
その「堤焼」に京焼の上品さとはんなりさを隠し味として注入したのが、江戸の名工三浦乾也である。 仙台でも馴染みの乾也は、京焼の名工尾形乾山の陶法の伝承者の一人である。 乾馬さんの号は初代が乾也から贈られたもの、「乾」の一字が示しているように、乾山の陶法が、 「針生流堤焼」の中に息づいている証であり、それはまた乾馬さんもその伝承者の一人であるということである。 千家十職ではないが、裏千家の茶碗を焼けるのも、そうした背景があるからであろう。
「堤焼」が時代を越えてなお人々から愛されているのも、それに誇りを持ち、土と炎と水と、 日々語り合う乾馬さんの、それらへの並々ならぬ愛情があるからで、それだけに乾山も乾也も、 乾馬さんのこの個展を大いに喜び、感謝し、声援を送っているにちがいない。
繊細にして大胆、そして自由奔放で屈託が無い乾馬さんの作品の一つひとつが、 鑑賞する方々のこころをゆさゆさ揺さぶり、記憶に残ることを期待して止まない。

平成十四年六月吉日
陶磁史研究家  益井邦夫


針生乾馬写真


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