「せんだいメディアテーク」がオープンして1年4カ月過ぎた頃、『建築：非線型の出来事―smtからユーロへ』（伊東豊雄建築設計事務所 編著、彰国社刊）を編集し終えた。タイトルから「せんだいメディアテーク」を暗示するものはsmt以外何もない。刊行が「せんだい」のオープンと同時だったら、タイトルに堂々と「せんだいメディアテーク」と刷り込むのだが、「せんだい」の情報が溢れかえって1年以上も過ぎてなにをいまさらと、読者が手にもとってくれないのではないか、そんなこんなと思い悩んで、「せんだいメディアテーク」はsmtに姿を変えた。本文中も、伊東豊雄さんの巻頭の文章以外は、強迫観念のようにsmtで通してしまった。
本の完成後、smt館長奥山恵美子さんにあいさつに行ったときに、はじめて「せんだいメディアテーク」を体験した。smtに身を置いてみて、ひとつだけこの本から欠落しているものがわかった。「場」「空気感」といったような曰く言い難い「雰囲気」である。写真で見る限りでは、チューブと呼ぶ鉄製の柱の存在が強く印象に残るのだが、そこに佇んでみると意識の上でチューブは背後に退き、とても居心地がいい。本には数限りないデータが詰め込まれているが、この雰囲気だけは伝えられない。伊東さんの建物をこれまで仕事柄いくつか見てきたが、伊東さんがよく例えに出される「まんまくで囲っただけの場」ということばが、これほどぴったりくるのはほかになかった。この雰囲気を身をもって当たり前のように感じている皆様には、私たちが編集した本が、私たちとはまた違って見えるに違いない。1階ナディフ・ビスでこの本を手にしてみてみれば、あなたの知らなかったsmt、そして私も知らないsmtがそこに立ち現れてくるはずです。
