検討委員会討議結果報告

1 討議結果報告の構成

検討委員会討議結果報告は次のような構成である。
初めに (2) 事業計画素案の問題点の指摘と検討結果を示す。
この検討結果を受けて、 (3) メディアテーク概念検討を以下の項目によって 多角的に行った。「定義」、「一般解との比較」、「メディアテークでのサービス(ワークショップ)」、「機能・活動」。
この概念をもとに (4) 事業計画策定指針として、想定される活動をその性格 、概念、範囲、継続性によってカテゴリー分けし、代表的なものを示した。
つぎに (5) 運営・組織形態試案をまとめた。
最後に (6)建築計画に関する検討は、その成果を示した。


2 事業計画素案の検討

『せんだいメディアテーク事業計画素案』はいままで事実上「基本構想」の替わりを果たしてきた。しかしながら、ここでは事業と施設機能をメニュー化してい るが、各施設の運営や活動範囲を施設本位で固定化しているため、メディアの特性を活かした活動が想定できない。さらに利用者を想定したサービス概念を欠い ているためメディアテーク全体の目的や意義が曖昧になっている。
また、主要なコンセプトとして設定された「エンジン」、「ワークショップ」 、「ライブラリー」といった3つの概念も運営、事業内容、サービスにまたがっており理解しづらい。素案の問題点を以下に示し、以下の章であらたに「基本構 想」を準備するための基本的概念を再検討した。


3 せんだいメディアテーク概念の検討

3-1 せんだいメディアテークの定義

「現在の情報テクノロジーをインフラとして構成される知の集積体であるとともに、あたらしい表象を生成するために利用できる施設。したがって従来、図書館、美術館と呼ばれていたものを新しいシステムに吸収するとともに、あらゆる市民の多様なアクセスに応じる」
この定義は引き続きプレ・イベントなどを通じて、利用者も含めて検討を重ね 、合意を取り付けなくてはならない。この定義を導くための前提として、以下に目的、方法、一般的なメディアテークの施設概念と「せんだいメディアテーク」 概念の比較等を示す。

3-2 一般的なメディアテークとせんだいメディアテークの定義比較

厳密には従来からの図書館、つまり本のアーカイブの仏語「ビブリオテーク」 に対する、「メディア」をアーカイブする未来型の図書館を示す。
しかし、「メディアテーク」の一般的な施設イメージとしては語の本来の意味 での「メディアのアーカイブ」だけでなく、さまざまな研究組織、ギャラリーな どの施設を兼ね備えている施設を包括的に示すことが多い。
ヨーロッパにおいては、大きくはメディア・テクノロジーの方法、応用を実験 ・研究し、アーティスト養成も兼ねる「ドイツ型」メディアテークと「フランス型」の図書館の発展形であるメディアテークに二分されるが、日本ではドイツ型 の専門的な施設をメディアテークとして表現することが多い。しかし、いずれの場合も、専門的、一般市民向けを問わず、館の運営・管理、利用の形態などを検 討、研究するための頭脳(研究部門)を持つ。
「せんだいメディアテーク」は既存の市民施設を包含して構想された前提条件から、活動の範囲を研究型、アーチスト養成型に限定することはできない。むし ろ、地域と連携した文化活動および、都市機能としての不特定利用者を重視する 。芸術文化および生涯学習推進のためのネットワーク型公共施設である。しかし 、そのためのさまざまな方法論、利用手法を検討するための頭脳を持つことは必要不可欠な条件である。

3-3 メディアテークの新しい公共文化サービスのあり方~ワークショップ

メディアテークは利用者の関心、表現意欲の度合によってさまざまな利用形態を可能とする。従来の公共施設の固定的な利用を前提にした「公共サービス」では、日々更新されるメディアの知的探究や創造性を前提とした生涯学習には対応できない。
メディアテークでは運営者、利用者が一体となって、このような施設の利用や活動方法を創造、確立していかなければならない。そのための重要な活動形態が 「ワークショプ」である。これは従来からの公共施設が想定する利用者に対する 「公共サービス」に替わる重要な方法である。

たとえば従来の市民図書館では「閲覧(ブラウジンング)」や「検索(レファレンス)」は館が利用者に行うサービスでしかなかったが、メディアテークでは積 極的な学習法、体験として位置付られる。図書館部門に収蔵した書物に限らず 、ネットワークを介してあらゆる知識や情報を「ブラウジング」や「レファレンス」できるため、閲覧や検索は利用者の関心の度合による無限の可能性に対応で きなくてはならない。 その立地から考えて地域コミュニティだけでなく、不特定な社会人による利用期待度は大きい。特定の研究ではなく日常的な知的欲求からの利用法が重要となろ う。
従来の公共図書館が雑誌、新聞ブラウジングサービスが、メディアテークでは 、「ブック」型の端末で情報を「ブラウズ/ネット・サーフ(インターネットのリンクを利用して世界中のあらゆる知識にダイレクトに繋がる)」となる。この ような高度な「ブラウジング」を前提した都市型の生涯教育施設として利用を期待できる。
またギャラリーでは市民が、新しいネットワークや技術を背景として従来からの芸術枠を超えた新しい表現(出版やホームページ)活動も行なう。表現者である 芸術家はもちろんのこと、市民の日常的な生活の記録(スナップ写真やビデオ)をまとめること、交換すること、発信することなど、日常に根差した地域文化の 記録、保存法(地域文化の保存)などを可能とする。そのことによって「ヴィジュアルアートを中心とする芸術文化の拠点」としてのギャラリーの機能はさらに 拡がり、市民各層のあらゆる表現能力開発を支援することになり、まさに生涯教育の場としての市民ギャラリーとして機能する。
さらに、ネットワークによって在宅で公共サービスが受けられるようになっても、利用者と施設スタッフによるインタラクティブ(双方向)なサービス形態は公共施設の意義を失わせるものでない。
外部との連係的活動(コンソーシアム)、情報発信(プレゼンテーション)活動もメディアテークにとって重要である。特に市民一個人をメディアテークの内部、外部における中継点としてネットワークし、館の活動を共有することの理解も重要である。

3-4 せんだいメディアテークの機能と活動について

せんだいメディアテークは既成の文化施設(図書館・ギャラリー・映像センタ ー・視聴覚障害者情報提供部門)の諸機能と共に、メディア・コミュニケーショ ン全般の「アーカイブ(資料/情報収集、編纂、調査、研究、開発)機能」、および「プレゼンテーション(表現、出版、ホームページでリンクなど情報発信) 機能」を併せ持つ。
既成の施設部門の活動、サービスの内容は詳細にわたって確立されているが、 メディア文化・芸術の全般にわたるアーカイブやプレゼンテーションに係る活動やサービス内容を現時点では明らかにはできない。新しいメディアについての技 術、応用が発展途上であり、それがもたらす文化、社会の全体像が現時点では明らかになっていないからである。
メディアテークでは、既成の施設サービスを満たしながらも、メディア全般を扱う全体としてのアーカイブ・プレゼンテーション機能がこれを統合し、包括して 活動する(従来からの施設機能の価値は少しも損なわれるものではない)ことで、さまざまな可能性のなかで発展させていく。
せんだいメディアテークのこのように複合化した機能の統括、管理調整は、常にメディア・コミュニケーション文化・社会の認識と研究を基盤として行わなくて はならない。このような方法論的研究・活動を行う機能をメディアテークのアドミニストレーション機能として認識し、確保する。


4 事業計画策定指針せんだいメディアテークで想定される主要な活動

4-1 メディア・コミュニケーションの方法論的研究例

日本メディア・コミュニケーションの方法論的研究はメディアテークが新しい文化 (デジタル、ネットワーク・コミュニケーション化された文化)を受容するためソフト・ハード両面の環境整備、組織・運営方針に係る。館全体のアドミニスト レーションに関わる活動であり、内的な活動である。
内容は以下に示すように新しい時代の芸術文化、生涯学習障害者情報サービスの基盤となる知的環境の研究である。メディアテーク運営や活動、事業展開の方向づけを行なう基礎的研究である。

4-2 メディア・コミュニケーションの実践的活動

メディア・コミュニケーションの実践的活動は、利用者に新しい環境・文化・ 社会への対応を促す啓蒙・普及活動である。ワークショップ形式の公共的活動であるが、市民サービスに限定されるのではなく、その方法自体をも研究・開発、 実験する。実践と研究を同時並行的に進めるのが、特徴である。
市民による既存の文化活動、アートに関する活動への施設提供や支援も含むが 、常に新しいメディア環境の中でサポート・サービスすることが重要である。館独自の特性を活かしてさまざまな文化活動を包括して、メディア環境の多面的な活動へと変換・展開していく。

4-3 バーチャルな「せんだいメディアテーク」の活動

バーチャルな「せんだいメディアテーク」の活動はコミュニケーション・ネットワーク上の活動である。地域コミュニティ、仙台市域全体、全世界に対する情報 発信、および情報交換の核としてデジタル・コミュニケーション、ネットワー ク文化の普及・研究・学習の拠点として活動する。在宅ケアなどバリアフリーの各種実験、実践も含まれる。

4-4 テンポラリーな活動、プロジェクト案

以下は先に挙げた継続的な研究活動と比べて、その都度組織、体制が組まれるテンポラリーな活動、すなわち「プロジェクト」として位置付けられる。それぞれの<プロジェクト>ごとに柔軟な研究組織、活動組織、グループ、サポート体制を組む。
研究・開発といった専門的な性格を持っていても、出版・展覧会やシンポジウム開催といった市民参加型の事業へ展開することができる。このような活動が関わるスペース、担当部課、設備も多様である。

4-5 活動のダイアグラムと建築の階構成

メディアテークの活動は施設機能、施設運営の組織と一致させたり、固定する ことはできない。各活動は施設さまざまな領域の部門、施設機能と連携しながら 進められる。利用者も同じようにさまざまな場所で活動することになろう。
以下ダイアグラムに各階機能とサービスの性格、活動例を示した。

各階機能

<サービスの性格>
活動例
●研究・開発・管理(専門的)指向
◎ワークショップ的活動
○サービス的・教育普及(開放的)指向
6F
メディア創造発信機能






<研究・開発・管理>
●メディア・インターフェイス・デザインについての研究
●メディアの変換とそのことによって発生する知・コミュニケーションに関す る研究
●GUI(Grafical User Interface)の研究
●HCI(Human Computer Interaction)の研究
●バーチャル・シティの研究
◎HTML、VRMLの利用によるホームページ制作
◎リンゲージ型データベースの構築
◎エキスパンド・ブックの制作◎AVルームによるプレゼンテーション及びバー チャル・シンポジウム等の開催
○建築内方位情報認識システム(バリアフリーサービス)
5F
4F
アートギャラリー機能

<市民ギャラリー的サービス>
◎ミュージアム・コンソーシアム、エキシビションの開催
○市民ギャラリー活動

3F
図書メディア機能

2F
総合レファレンス機能

<図書館的サービス>
◎インターネット・カフェ(ブラウジング、レファレンスのワークショップ)
◎ライブラリー・コンソーシアム開催
○図書館活動

◎コンピュータ・リテラシー、ネットワーク・リテラシーの普及
○図書館活動
1F
エントランス
ギャラリーホール機能

<イベントホール的サービス>
◎デジタル放送局の開局、デジタル新聞の発行
◎バーチャル・シンポジウム等の開催
○イベント活動

バーチャルな「せんだいメディアテーク」の活動
●リンケージ型データベースの構築
◎デジタル放送局の開局、デジタル新聞の発行
◎ライブラリー・コンソーシアム、バーチャル・シンポジウムの開催
◎ミュージアム・コンソーシアム、バーチャル・シンポジウム、エキシビション
◎コミュニケーション・エイドによる危機管理、在宅デイケア
○インターネットの普及


5 運営・組織形態試案

せんだいメディアテークの運営は通常のアドミニストレーションとともに、全体像が見えていない活動に対応するための運営組織体制を想定しておかなくてはならない。そのため組織、部課、学芸員など固定的な構成にとらわれないさまざまな形式の運営、雇用とする。
館全体のアドミニストレーションには「コミッティ」を館と独立した組織として結成し、さまざまな環境や技術の変化に対応して、館の運営方針を柔軟に決定する。
具体的な事業の運営については、さまざまな活動(プロジェクト)ごとにメンバーが変化できる活動単位と、それの受入れ体制(ヒト、セクションと場所、施設)を作っておく必要がある。
これらが既存の公共施設運営の組織とどのような関係、調整が可能か、また各組織の特性、弊害を含めて引き続き検討する必要がある。

 

5-1 運営組織とプロジェクト推進の形態

●従来の公共施設とせんだいメディアテークの活動部門比較

図書館、ギャラリー せんだいメディアテークが併せ持つべき特性
取扱うメディア 書籍、従来の芸術(絵画、彫刻、写真) あらゆる(電子化されうる)メディア
目的 既存文化の普及、啓蒙(P&D) 既存文化メディア環境変換、新文化の探求(R&D)
活動の運営形態 図書館(司書)、ギャラリー(学芸員) ワークショップ(契約キュレータ、研究員)
活動形態 クローズド/サービス型 オープン/研究支援・参加型
アクティヴィティ 固定的 可変的
活動拠点 固定的 可変的(開放的)

運営組織案とプロジェクト推進のダイヤグラム

館の運営形態 プロジェクト推進と表現の形態















'







































ディレクター(常勤)






















a)既存文化施設型活動

b)コンソーシアム型
(大学、研究所、企業)

c)ワークショップ、セミナー型
(一般会員参加)

d)展覧会型

e)シンポジウム型

f)イベント、講演型出版型

g)ネットワーク型

h)テナント型
キュレーター(常勤テクニシャン)

a)アート・キュレーター
b)図書館キュレーター
c)アドミニストレーター(サーバー管理)
d)エディター(メディア全般の管理)
e)デザイナー(メディア全般の管理)
f)エデュケーター
研究員(非常勤スタッフ)

a)客員研究員(アーティストインレジデンス)
b)奨学生
c)ボランティア

6 建築計画に関する検討と成果

6-1 建築計画の推移


第1回検討委員会時
A案

B案
検討後の成果
7F
開架ライブラリー
7F
インスタレーション
6F
開架ライブラリー
6F
一般ギャラリー
6F
メディア創造発信機能

映像メディア収蔵(北面)
AVルーム(中央)
バリアフリー映像作業(中央)
ワークショップスペース(中央)
5F
ワークショップ
ギャラリー
5F
ワークショップ
ギャラリー
5F
アートギャラリー機能

作業スペース(北面)
アートギャラリー(中央)
ホワイエ(南面)
4F
一般ギャラリー
4F
開架ライブラリー
4F
アートギャラリー機能

作業スペース(北面)
アートギャラリー(中央)
ワークショップスペース(南面)
3F
ワークショップ
3F
開架ライブラリー
3F/M3F
図書メディア機能

開架図書(壁面・中央・兼手摺)
個人閲覧(北面)

開架図書(壁面・中央)
郷土資料(北面)
バリアフリーメディア(中央)
2F
インフォメーション
ワークショップ
2F
ワークショップ
2F
総合レファレンス機能

ワークショップスペース(南面)
総合カウンター(中央)
新刊書開架(東面)
ライブラリーギャラリー(南面)
1F
インスタレーション
1F
インフォメーション
ワークショップ
1F
エントランス機能

レストラン(南面)
ミュージアムショップ(東面)
ギャラリーホール(中央)
荷解き・搬入スペース(西面)
エントランスホール(南面)