報告 2022年04月10日更新

【報告】見えない人とつくるおしゃべり鑑賞会


せんだいメディアテーク開館20周年展「ナラティブの修復」で、目の見えない人と見える人が対話を通して一緒に鑑賞するプログラムをおこないました。

[日時]20211128日(日) 10時から1215
[会場]せんだいメディアテーク 6階ギャラリー、および7階スタジオb

鑑賞会の様子。見える学生二人と白杖を持った見えない学生一人が、出展作家の一人、工藤夏海さんの「まちがい劇場」を鑑賞している

概要

この鑑賞会は、仙台市で視覚障害のある人たちの相談支援や就労支援施設の運営などをおこなっている、認定NPO法人ビートスイッチと一緒に実施しました。ビートスイッチでは、2011年より宮城県内の美術館や博物館を中心に、見えない人と見える人が対話を通してともに鑑賞するプログラムに積極的に取り組んでいます。今回は、メディアテークからぜひ一緒に20周年展の鑑賞会を実施しませんか、とお声がけして企画が実現しました。
当日は、ビートスイッチから見えない人3名とスタッフ2名、東北文化学園大学から見える学生7名、引率の先生1名、メディアテークのスタッフ3名の合計16人が、56人の3つのグループに分かれて対話による鑑賞を楽しみました。

鑑賞会の様子

▶集合・あいさつ
参加者は、まず仙台駅に集合し、地下鉄と徒歩でメディアテークの6階ギャラリーまでやってきました。鑑賞だけでなく現地まで移動することもプログラムの一部として楽しんでいます。今回参加してくれた見えない人と見える人は初対面でしたが、移動をともにしたことで、会場に着いたころには場の空気があたたまり始めていました。

ギャラリー前のホワイエでメディアテークスタッフの説明を聞いている参加者

全員がそろったところでまずは自己紹介タイム。その後、メディアテークから今日のプログラムの流れやこれから鑑賞する「ナラティブの修復」展の内容についてお話ししました。

今回鑑賞する展覧会のテーマは「ナラティブ(もの語り)」です。東日本大震災以降、メディアテークとともに地域で活動してきた仙台・宮城ゆかりのアーティスト10組による現代アートの展覧会です。過去の出来事や人びとの記憶、体験などを他者に開いていく、さまざまな「語りの技術」を紹介しています。

ここで、メディアテークのスタッフから参加者のみなさんに「過去の出来事や体験したことを、誰かに伝えたいと思ったとき、どんな方法で伝えますか?」と聞いてみたところ、「SNSに投稿する」「ブログを書いて発信している」といった声が上がりました。そこで、「この展覧会では、そうしたインターネットの技術だけに頼らず、いろいろな手法で語り伝えていくことに取り組んでいる作家の表現を紹介しています。どんな方法で行われているのか、楽しみにしていてください」とお話ししました。

次に、「見えない人と一緒にことばで鑑賞する」とはどういうことなのか、ビートスイッチの泉田さんから、「鑑賞の"しない"ルール」について説明がありました。

鑑賞の「しない」ルール

その「鑑賞の"しない"ルール」とは......

①静かに鑑賞しない
おしゃべりしながらの作品鑑賞をたのしみましょう

②見える人は一方的な説明をしない
自分の声や相手の声、作品の声を「聞く」ことも忘れないで

③見えない人 見えにくい人は聞き役に専念しない
見える人に、どんどん困らせる質問をしましょう

④すべてをわかり合おうとはしない
むしろ感じ方の違いを楽しんで、気軽に鑑賞しましょう

「鑑賞」というと身構えてしまうかもしれませんが、気軽に楽しむことを大事にしたこれら4つのルールを念頭において、いよいよギャラリーの中に移動します。


▶鑑賞会スタート!
5~6人ずつの3つのグループにわかれ、移動しながら鑑賞します。各グループに見えない人または見えにくい人が1人ずつ入ります。
来場者には、受付で展示作家のことばと会場図が掲載されたハンドアウトが配布されます。今回は、参加者のうち、全盲の人には立体プリンターで印刷した会場図と点訳版のハンドアウトを、弱視の人には拡大文字版のハンドアウトをそれぞれ用意しました。

ハンドアウト(左から墨字版・点訳版・拡大文字版)左から墨字版、点訳・点図版、拡大文字版

この展覧会では、10組の作家による表現が、ギャラリーだけでなくホワイエも使って展示されています。今回は、作品数をしぼらずに、それぞれのグループが気になった作品から自由に見てまわりました。グループでどんなやりとりが生まれていたか、その様子を少し紹介します。

佐々瞬さんの作品を鑑賞している様子。白杖を持った見えない学生一人、見える学生二人、見えるスタッフ二人が家を模した作品の中で映像作品を見ている【鑑賞作品】佐々瞬 追廻住宅記録/最後の家(仮) 2021年

「何か木のにおいがする」
「古い民家にいるみたい。ヘルメットや木の箱、家具が置いてあって、正面にスクリーンがある」
「映像では、作業着を着た人が、家にあるものを段ボールにしまっている」
「今度は詰めたものを外に出している」
「夜逃げかな?(笑)」
「落ち武者みたいな人が出てきた。かつてここに住んでいた人の霊かな」
「戦争にでも行くのかな」
「後ろは街並みが広がっている。街がどんどん発展している感じ」
「過去から未来に向かっている感じだね」
「片付けをするなかで、最初から住んでいた人が霊になって出てきた感じ」
「今度は家を修理しているみたい。これからこの家に住むのかな」
「片付けてからどうなるのか...?住むのかもしれないし、保存するのかもしれないし...」

菊池聡太朗さんの作品を鑑賞している様子。白杖を持った見えない学生一人と見える学生3人が荒れ地を描いたドローイングの前に立って会話をしている

【鑑賞作品】菊池聡太朗 荒れ地について 2021年

「縦に長い絵です」
「雲っぽい何かがある。青と紫が多くて、ところどころ黄色が混じっている感じ」
「何か羽みたいにも見えます」
「納豆引きみたい(笑)形がそれっぽい」
「何か、オーロラみたいな」
「そこだけが明るい色で、希望の光みたい」
「確かに、ほかは黒とか白であまり色がない」

こんなふうに、見えるものをことばにしていき、そこから感じることを自由に伝え合いました。様子を見ていると、作品に使われている素材のにおいや、聞こえてくる音から鑑賞の手がかりをつかんでいくグループも見られました。また、今回はどのグループも10作家による表現をすべて鑑賞しましたが、3つのグループそれぞれで、どの作品に惹かれるか、どこに着目するかは異なります。偶然集まった人たちで繰り広げられる唯一無二の対話が、この鑑賞会の魅力でもあると感じました。

▶振り返り
最後に、メディアテーク7階の「スタジオ」に移動し、鑑賞会の振り返りをおこない、参加者から感想をうかがいました。

振り返りの様子。メディアテーク7階のスタジオbで、参加者とスタッフが輪になって話をしている

  • 目を通して感じたことを、言葉で伝える。そして、それを音声で聞いたかたが、自分なりの捉え方をしている。情報源は違うけど、頭の中で想像して楽しむのはみんな同じようにしているなと感じた。
  • 絵画は「さみしい雰囲気がする」とか自分の感覚を伝えられるけど、現代アートは事実を伝えることができても、そこからどう感じたかを伝えきれないところがあった。ただ、「11歳だったわたしは」は、11歳というキーワードをもとに、自分が11歳のときにどうだったかという話をすることで、アートを共有できたと思った。
  • 芸術を見ること自体は好きだけど、見たものを捉えて、それを人に伝えることの難しさを実感した。震災を体験した身として、当時の恐怖や不安を思い出せた。芸術として震災のことを残していくのは、後世にとってすごく大事だと思った。

はじめは目の前にある作品をどのようにことばで伝えるか、悩みながら始まった鑑賞会でしたが、見えない人が積極的に質問をすることで、見える人から次第にことばが出てくるようになりました。ただ、参加者の感想にもあったように、見えるものから「どう感じるか」を伝えきれないところがあったといいます。今後は、鑑賞する作品をしぼったり、ひとつの作品の鑑賞時間を十分にとったりと、鑑賞会の作り方や気軽に発言できる場のあり方を工夫する必要があると感じました。

また、ビートスイッチのスタッフで視覚支援学校の先生でもある千葉先生からは、「見えない人が視覚芸術を鑑賞する機会は少ない。今回、展覧会に招いてもらえてよかった。いつもとちがう非日常の空間に行くこと自体に楽しさがある。これからも見えない人が足を運べるきっかけをつくってもらえたら嬉しい」と感想をいただきました。メディアテークでは、開館当初より音声解説つきのバリアフリー上映会などに積極的に取り組んできましたが、今後はさまざまな文化芸術活動において、見えない人とつくるプログラムを考えていきたいと思います。

(担当:高橋)


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