2023
03 02
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イベント 2024年08月21日更新
「椎名勇仁 可塑圏:ねん土的思考」展の概要
わたしたちにとって粘土は、クレヨンと並んで幼児期に触れる最初の表現媒体ではないでしょうか。
柔らかく自在に状態を変え、どんな形にすることもできる粘土の性質を「可塑性(かそせい)」といいます。
それは魅力的ですが、成長とともに粘土の遊びに没頭することは少なくなっていくものです。
仙台にゆかりの美術家、椎名勇仁(しいな・たけひと)は、そうした粘土の性質に関心を持ち続け、塑造を中心とした表現活動を20年以上続けてきました。
活動初期の1990年代末には、粘土だけでなく日用品や食べ物など、多様な素材で可塑性を確かめる実験を繰り返します。
やがて、水分次第で自在に状態を変化させる粘土が、焼成によって可塑性を失うことから、粘土を不可逆な時間の隠喩として捉えるようになります。
2000年代に入ると、粘土の起源を遡るように塑像を活火山へ持ち込み、その熱で素焼きする〈火山焼〉のシリーズを開始しました。
火山から生まれた岩石が、風化して粘土になるまでには数万年から数百万年の膨大な時間を要するとされます。
焼成によって溶岩をまとった物体は、その時間を超えた可塑性の循環の象徴なのです。
椎名は、火山を媒介とすることで、人の身体や時間の認識を大きく逸脱し、粘土の性質を観念的に継続させています。
そして、この火山焼にとどまらず、椎名の表現とは、かたちを変化させる技術を駆使して、ものごとの成り立ちや因果性を物語る試みだといえるでしょう。
この展覧会では、初期の作品から、現在制作中の「十二神将」のシリーズまで、椎名の活動の成果を年代記のように配置します。
会期中には、過去に失われたいくつかの作品が粘土で再制作されて展示に加えられ、展示空間全体が、椎名による可塑性の圏域=可塑圏として構成されます。
そして、その展示空間は、仙台で活動するデザインチーム「建築ダウナーズ」が設計します。
21世紀に入りわたしたちの社会は、デジタル技術への依存を高め、数値で示される正しさの前に、寛容さを失い硬直化してはいないでしょうか。
個人もまた、ビッグデータをもとに類型化され、平均化された数値的な存在として扱われようとしています。
あたかも可塑性を失いつつあるようなこの社会のなかで、椎名の手さぐりの探求は、正解に囚われないことの大切さや、数値ではない「わたし」のかたちと重さを気づかせてくれるはずです。
その長い道ゆきを本展でご確認ください。