2014年11月03日更新

濱口竜介監督の選定作品とそのねらい


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■濱口監督選定作品

『夜の女たち』(監督:溝口健二/1948年)

『ポンヌフの恋人』(監督:レオス・カラックス/1991年)

『夏時間の庭』(監督:オリヴィエ・アサイヤス/2000年)


 まず「フィクションとノンフィクションの境目を再検討する」性格を持った今回の上映会においていったい何を選ばなかったかを明らかにしておく。第一に「カメラを睨め付けること(撮影者の存在を暴露する)」ことや「つなぎ違い(編集点の存在を強調する)」を含むことで、撮影や編集にそもそも内在するフィクション性を強調する作家・作品は選ばなかった。端的には小津*とゴダール*は選ばなかった。また「演じること」を自覚的に主題とする作品群--例えばシュミット『書かれた顔』*やカサヴェテス『オープニング・ナイト』*などは選ばなかった。

 今回選んだのは言うなれば素朴な劇映画だ。ここで言う「素朴」さは、役者が書かれた脚本を記憶/解釈し、ある種のリアリズムに基づいて(自らの演技性の暴露ではなく、登場人物の「実在」を志向して)演じることから成る映画に宿る。

 カメラという圧倒的な記録装置の前で「演じる」という怪しく儚い行為を差し出す。そんな最も困難な挑戦において、誠実さと、知恵と、勇気(狂気?)によって類稀な成果を示している3本を選んだ。(濱口)


*1...映画監督で脚本家の小津安二郎(1903-1963)。登場する役者がカメラに向かって話すなどの撮影手法で知られる。

*2...フランス・スイスの映画監督ジャン=リュック・ゴダール(1930-)。画面のゆるやかな連続性を排してカットを繋ぎ合わせるジャンプ・カットなど、特徴的な撮影手法を用いる。

*3...『書かれた顔』はスイスの映画監督でオペラ演出家のダニエル・シュミット(1941-2006)による歌舞伎女形坂東玉三郎のドキュメンタリー映画作品。伝統的な演目のほかに創作劇を組み込み、女を演じるということに迫る。

*4...『オープニング・ナイト』はアメリカの映画監督で俳優のジョン・カサヴェテス(1929-1989)による映画作品。目の前でファンの少女が事故死したことをきっかけに情緒不安定となるブロードウェイ女優の混乱と、苦悩の中に立ち現れる演技を描く。


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