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報告 2025年06月20日更新
【レポート】第95回てつがくカフェ
【開催概要】
てつがくカフェ 「評価と共感のあいだにあるもの ーほめること、認めることー」
日時:2025年5月6日(火・休)14:00−16:30
会場:1f オープンスクエア
ファシリテーター:浅利信太朗(てつがくカフェ@せんだい)
ファシリテーショングラフィック:三神真澄(てつがくカフェ@せんだい)
今回のてつがくカフェでは、「ほめること、認めること」を切り口に、「評価」と「共感」のあいだにある関係性の揺らぎや、言葉のもつ力について対話が行われました。
今回のテーマ設定の背景には、若者向けのユースてつがくカフェで出た「ほめることへの違和感」がありました。ほめることはポジティブな行為とされる一方で、そこには上下関係や評価の押しつけなど、複雑な思いが含まれていることが指摘されていました。
今回の対話ではまず、小学校教員の方から「ほめるという言葉そのものが胡散臭く感じられる」という率直な思いが語られました。日本語のほめ言葉は、上から目線の響きがあるものが多く、対等な関係ではほめにくい。だから無言のグータッチや目線での共感など、言葉以外の表現を意識しているという話でした。
また、「君は真面目だね」などに悪意を感じたという話が出て、称賛の中に妬みや皮肉が入り込むことも指摘されました。ほめる側の言葉が、時にコントロールや誘導の手段のように感じられるという体験もあり「ほめ殺し」という言葉が想起された場面もありました。
一方で、「自分が書いた作文がほめられた時に、作品だけでなく背後の思いや動機まで聞かれ、深く認められたと感じた」という経験談もあり、言葉の背景にある関心や敬意が、ほめることをより実感あるものにするのではないかという意見も出されました。
また、家庭教師の経験をもつ参加者からは、「生徒の問いに『いい質問だね』と返すと、子どもの目が輝いた」という実感が語られました。こうしたやりとりが信頼関係を育み、褒めることが相手の内側にある力を引き出す契機になるという前向きな意見も共有されました。
対話を重ねる中で、ほめるという行為は、言葉の選び方だけでなく、その場の関係性や文脈、さらには周囲の視線や文化的背景によっても大きく左右されることが明らかになってきました。
さらにここで「ほめることは善か悪か、それとも善悪とは別の軸か」という問いが提起されました。
ほめる行為の意味は、意図や文脈、受け取る側の感じ方によって大きく変わることが指摘され、関係性や会話の広がりによって善とも悪ともなりうるという意見が出されました。
その中で、ほめた結果として次のいい展開が生まれるかどうかが鍵だと感じているという意見もありました。
さらに、「褒めることは『あなたを見ています』という共感や関心のサインになりうる」との声もありました。褒めることで生まれる対話や、その後の関係性の変化を肯定的にとらえる参加者も多く、「手袋素敵ですね」といった一言がきっかけで、そこから会話が広がる場面のように、褒める行為が新たなつながりを生む可能性にも注目が集まりました。
また、ほめられたとき自分が納得していないと嬉しさを感じられないことから、自分自身が「そうだ」と思えるかどうかが重要だという意見もありました。
ほめることの価値や意味は一義的に決められるものではなく、その場のやりとりや自分自身の考えから立ち現れてくるものであることが浮き彫りになりました。
続いて、これらの対話を踏まえてほめることを考えるうえでのキーワードを挙げてもらいました。
<キーワード>
・傷
・関係性
→対等でありたい
・比較・基準↔多樣性
・コントロール -ほめ殺し、納得してない
→ほめられなれていない、言葉通りに受けとれない
・ほめる、ほめられる≠善
・崩壊
→大人の価値観、子どもの目
・うれしい
→ほめられたらうれしいと思わないといけない?
・キャッチするスキル
→いい関係をめざす(誰が?何を?)
・行動
・認める
→肯定的なメッセージ、ほめられたい
・言葉
そしてここからその考えを深めるための問いを出していきました。
<問い>
・こころ(相手の気持ちを慮る)とは何ぞや
・認められるとはどういうことか
・ほめるとは善か悪かそれとも違う軸のものか
・認めることを伝えるには
・ほめると同じような不確かな言葉はないか
・傷を認められるか
・ほめる行為をろ過しよう (上の問の1つの解答として)
ここで時間切れとなり、ここから先はそれぞれが持ち帰り、さらに考えを深めていくこととなりました。
今回の対話を通じて、ほめることの意味や役割について、多様な角度から見つめ直す機会となりました。そして、自分自身の価値観や普段の表現についてもあらためて問い直すような時間になったように思います。
(文責:てつがくカフェ@せんだい)