イベント 2017年02月02日更新

レポート:ギャラリーツアー(後編)


「畠山直哉 写真展 まっぷたつの風景」の関連イベントとして実施したギャラリーツアー。2016年11月13日に実施した第1回目のツアーを振り返る前編レポートに引き続き、後編レポートでは12月4日に行った第2回目のツアーの様子をお伝えします。
 

この日のホストはメディアテーク学芸員の清水チナツです。
清水はツアーの冒頭で、畠山さんの「風景はただそこにあったものではなく、人間が歌を詠んだり絵にしたり写真を撮ったりするたびに、新しく生まれている」という言葉を紹介し、「作品と一対一で向き合う時間を大事にしていただきたいと思います」と挨拶。まずは、畠山さんの震災前の作品を中心に構成した展示の前半部から巡っていきます。
 

a_1.jpg

こちらは、東京の渋谷川の暗渠を撮影したシリーズ「アンダーグラウンド」(1998-1999年撮影)。
畠山さんは、真っ暗な水路に足を踏み入れたときの体験について、「誰もいないけれど、頭上から人の声や車の音が聞こえ、光が少しだけ差し込む部分からは、ボトッとたばこが落ちてきた」と話していました。本作は、普段は光の届かない場所に身を置き、眼差しを向けることで現れた風景を写し出しています。
 

a_2.jpg

畠山さんが実際に滞在した、世界各地のホテルの部屋を撮影したシリーズ「CAMERA」(1995-2009年撮影)です。
ランプシェードの上方から灯りが天井に伸び広がり、壁と壁、天井と壁の継ぎ目を照らす様子には、規則的な形状のリズムを感じることができます。額装のマットには、畠山さんが宿泊したホテルの名前と部屋番号、日付が記されています。

清水はここで、畠山さんがイタリアに滞在した際、フロントで「あなたのカメラのキーはこれです」と言われ、ドキッとしたという経験談を紹介。「イタリア語では寝室のことを“カメラ”というそうです。寝るための部屋なので暗く、窓がひとつ付いているというつくりで、それがカメラの構造と同じなのだといいます」と話しました。
 

次に、おもに震災後の畠山さんの写真を展示した後半部を見ていきます。

a_3.jpg

畠山さんの故郷である陸前高田の、震災前の写真をスライドショーにした作品「気仙川」(2002-2010年撮影)。
畠山さんの実家の側を流れる気仙川の水面や、お祭りで町を練り歩く人々の様子などが写し出されています。

これらの写真について、畠山さんは「もともと作品としてまとめる予定のなかった写真が、震災後、失われた場所の写真として別の意味を持ち始めた」と語っています。浮かんでは消えていく記憶のような印象を表すために、スライドショーとして構成したそうです。
 

a_4.jpg

展示後半部を抜けると、畠山さんの写真集や書籍を閲覧できるスペース「対話の空間」があります。
ここでは、畠山さんとゲストによる対談や、展覧会にまつわるテーマをもとに話し合う「てつがくカフェ」を行いました。対話の内容は黒板に記録し、会場に展示。展覧会の振り返りや、読み解きのきっかけとして、来場者の方々に自由にご覧いただきました。
 

a_5.jpg

また、「対話の空間」の正面には、畠山さんが大学院時代に撮影した、写真家としてのデビュー作「等高線」(1981-1983年撮影)があります。
牛や小屋、樹、軽トラックなど、辞書で引く単語のようなモチーフを画面の中心に置くというシンプルな構図が特徴です。

畠山さんは本作について、「写真の非人間的な、自動的に画像を生み出す仕組みに、そのまま画像が無造作に紙の上に出てくるというところにスリルを感じていた。だから、写っているものを見せたいというよりも、写真のプロセスを含めて見せたいという気持ちがありました」と話していました。

写るものすべてを等価に扱う畠山さんの姿勢に触発され、鑑賞する側も、写されたものをじっくりと観察する身体に変化していく。本作は、そんな不思議な感覚を与える写真です。清水は、「『等高線』を『対話の空間』の正面に展示することで、さまざまな問いを、大切なこととして場の中心に置き、対話を通してその問いに向き合うことができたらという期待を込めた」と話しました。
 

a_6.jpg

そして、会場の外周部に展示している「A Bird/Blast#130」(2006年撮影)。
畠山さんの代表作として知られる、石灰石鉱山での岩石の発破の瞬間をとらえたシリーズ「ブラスト」から副次的に生まれた作品です。

モータードライブ(高速連写をおこなうための自動フィルム巻き上げ装置)を使用して撮影された本作は、発破の瞬間や砂煙が立ち上がる様子をコマ割りのように写し出していますが、同時に、その背景の空に飛ぶ一羽の鳥の様子を写しています。

最後に清水は、「発破に驚いた反応を見せつつも淡々と飛んでいく鳥の姿が、この展示を巡ったわたしたちに、最後に教えてくれるものがあるのではないかという思いでこの場所に展示しています」と話しました。

 

「畠山直哉 写真展 まっぷたつの風景」は2017年1月8日に会期終了を迎えました。
ご来場いただきましたみなさま、誠にありがとうございました。
今後は、2017年6月に本展の記録書籍の発刊を予定しております。どうぞご期待ください。

 


x facebook Youtube