イベント 2017年02月02日更新

レポート:ギャラリーツアー(前編)


2017年1月8日に会期を終えた「畠山直哉 写真展 まっぷたつの風景」。
今回は、本展の振り返りとして、2016年11月13日、12月4日に行った2回のギャラリーツアーの模様をお届けします。
 

まずは第1回目、11月13日のツアーから。
この日のホストはメディアテーク学芸員の清水有です。

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はじめに、清水から「まっぷたつの風景」という展覧会名の元になった、イタロ・カルヴィーノの小説『まっぷたつの子爵』についての説明がありました。

戦場で砲弾を浴びた子爵の身体が、悪の部分(悪半)と善の部分(善半)に引き裂かれ、それぞれ故郷の村へ戻り、村人たちを翻弄していくというこの物語は、誰もが持っている悪と善のふたつの側面を、簡単に線引きしたり、良いか悪いかと判断したりすることはできないということを示します。

清水は、震災という大きな出来事を経験した畠山さんにとって、「風景」はどう変化したのか、また、畠山さんが写し出す「風景」は、震災以降の現在を生きる私たちの社会にとってどのような意味を持つのかという本展の趣旨についても触れながら、展覧会をつくりあげた経緯について「畠山さんの愛読書でもあるこの『まっぷたつの子爵』に着想を得て、展示の構成を練っていった」と話しました。
 

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展覧会場の冒頭に展示した作品「タイトルなし(哲学者)」(2012年撮影)の前にて。
こちらは、畠山さん自身が自宅の近所で目にしたという、道路にチョークで書き連ねられた哲学者の名前を写した写真です。

畠山さんは、「この落書きを見て、雷に打たれたような衝撃を受ける人もいると思うんです」と話しています。実際に畠山さんもそのひとりで、古代ギリシアから現代に至るまで、答えに辿り着けないような大きな問いに脈々と挑んできた哲学者たちの名前を見るだけで、一気に歴史が目の前に現れるような感覚が起こったといいます。また、同時に畠山さんは、「この落書きを書いた人が哲学書を読み込んでいるかどうかはわからないけれど、日常的に、問いを抱えながら生きる人たちのことを僕は大切に思う」とも話しています。
 

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そして、北フランスの炭鉱の町を撮ったシリーズ「テリル」(2009−2012年撮影)。
本展のwebページやポスターにも使用している、画面の中央に2本の木が立っている風景を写した作品もこのシリーズのひとつ。

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▲「畠山直哉 写真展 まっぷたつの風景」のバナー。シリーズの中から、「テリル#02337」(2009年撮影)を使用しています。

2本の木は、互いに接触を避けようとする走性によって、まるでまっぷたつに引き裂かれたかのように対称的な姿で立っています。また、地面の大きな水たまりに空と2本の木が映り、逆さに同様の風景が現れて、異様な感覚を与えます。

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そして、スイスのアルプス山脈の雪山や氷河を撮影したシリーズ「もうひとつの山」(2005年撮影)。尖峰に載っかるように建つ、スフィンクス展望台を写した写真などが並びます。
このスフィンクス展望台へは、ヨーロッパの鉄道駅で最高位に位置する地下鉄駅ユングフラウヨッホから、さらに地中エレベーターを通じて到着します。写真には、壮大な山々や氷河の内部に、とても小さな人々の群れが軽装で入り込んでいく様子が写し出されています。

また、この写真の隣には、ごつごつとした山肌から真っ平らな面が続く、不思議な風景を写した写真を配置しています。実は、これはスイス・アルプス博物館が所蔵する山の精緻な模型を写したもの。平らな面は、穏やかな海のようにも、何かをすっぱりと切った断面のようにも見え、写真をどの方向からどのように見るかという、見る側の捉え方をも揺り動かします。
 

ここまでは、おもに震災前の作品を展示した前半部を見てきました。次は、震災後に畠山さんが撮影した写真を展示した後半部を見ていきます。

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まずは、「陸前高田2011-2016」です。
ここでは、空間を大きく使って長大なテーブルを置き、畠山さんが2011年3月11日の震災以降、現在までずっと撮り続けている故郷・陸前高田を写した写真のコンタクトシート(フィルムを印画紙に焼き付けたもの)を並べています。

552枚の(約4400カット)のシートには、ところどころに畠山さん自身のメモも書かれており、風景の移り変わりとともに、約5年にわたって故郷を見つめてきた畠山さんの歩みを感じることができます。また、テーブルの奥の壁には、畠山さんがコンタクトシートの中から選んだ46枚の写真を展示。シートの中の陸前高田の風景が、プリントされた写真となって、目の前に現れます。
 

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そして、コンタクトシートのテーブルの先には、北海道の奥尻島から見た海を写した作品「奥尻 2016年7月12日」があります。
奥尻は、1993年に津波で壊滅的な被害を受けた町です。畠山さんは津波から23年経ったその場所がどういう町並みになっているのか、自身の目で確かめるために奥尻を訪ねました。そのときに見た海はとても静かで穏やかで、畠山さんは「陸前高田の未来を見た気がした」と語ったといいます。活気に満ちた華々しい町になることではなく、淡々と、静かに人々の暮らしが営まれること。それも、ひとつの未来の姿なのかもしれないと感じたそうです。


さて、第1回目のツアーはここまで。
第2回目、12月4日のツアーの様子は後編のレポートでお伝えします。


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