報告 2021年08月26日更新

第14回映像サロンレポート


87日(土)に、第14回映像サロン「ドキュメンタリーは生きている~エンドマークのその先に~」が開催されました。今回の映像サロンでは、多摩川に暮らすホームレスのおじいさんを追ったドキュメンタリー映画『東京干潟』の村上浩康監督に、あまり語られることのない映画完成後の作り手と被写体の関係性についてお話しいただきました。

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会場の様子

映画をご覧になったお客さんから、「あのあとおじいさんはどうなったんですか?」と聞かれることが多いことから、今回のテーマで発表しようと考えたと語る村上さん。上映後のディスカッションでは、おじいさんの現在の様子を映した短編映像も特別に上映していただきながら、映画の反響が実際におじいさんの生活にどのような影響をもたらしたかについて、さまざまなエピソードをご紹介いただきました。

中でも、201910月に発生した台風19号による川の増水でおじいさんの小屋が被災してしまった際に、村上さんが呼び掛けて映画をご覧になった方を中心にたくさんの人がおじいさんの支援に動いたエピソードなどは、映画がもたらした直接的な影響を知る上で非常に興味深いものがあり、おじいさんのその後や干潟再生の取り組みを知った参加者からは「安心した」「励みになる」といった声が寄せられました。

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ZOOMで登壇した村上浩康監督と参加者の対話

一方で、映画の公開によっておじいさんのプライバシーが脅かされそうになる場面もあり、そうした場面でいかに被写体を守り、リスクを軽減するかなど、話の内容は作り手の責任や倫理的な課題にも及びました。とくに、ドキュメンタリーの場合は現実に生きている人の人生をお借りして作品を作る以上、被写体となる人の意志を尊重し、さまざまな都合に配慮しなくてはならないという前提があります。そこにはプライバシーの問題だけでなく、被写体の一面をどう切り取り、どう描くか、それによってご本人が観客にどう観られるかといった表現上の課題もたくさん含まれてきます。

その中で、映画に出たことがご本人にとって不幸なことにならないようにするためにはどうすればよいのか。ご本人の気持ちを置き去りにせず、納得の上でたくさんの人に映画を観てもらうためにはどうしたらよいのか。村上さんの場合は、おじいさんに劇場にゲストとして来ていただくことで、実際に映画を受け止めてくれた観客と触れ合う中でご本人に安心してもらうといった場面もあったようですが、このように、4年半という長い時間をかけて被写体と真摯に向き合い、撮影から公開までのプロセスを丁寧に積み重ねていく村上さんの姿から多くのことを学ぶことができました。

また、このような繊細な配慮を必要とし、ときに難しさも感じながら、それでも何故撮るのかについて、村上さんはご本人には気付かない、第三者にしか分からないその人の魅力を挙げましたが、映画を観た参加者からは、「一つの価値に固定されない、時代を超えていろんな見方ができる映画」「偏見を取り払って人を見ることの大切さや命の尊さを学んだ」といった感想が寄せられました。そして現在も作り手と被写体の関係性を超えた、人としての交流が続く中で、自然とおじいさんの同意の元にこの作品が上映され続けていることに、ドキュメンタリー映画の一つの幸福なあり方を見る思いがしました。

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今回、震災10年企画後はじめての映像サロンということで、みやぎシネマクラドルとしてもどのような企画を行うべきかいろいろ試行錯誤していましたが(さらにこのコロナ禍もあり)、これまでドキュメンタリーの発表が多かった当会としてはある意味原点回帰のような内容で、参加者のみなさんからの反響もよく、スタッフも気持ちを新たにすることができました。これからも映像サロンを通して社会との関わり方や表現のあり方、そして人の生き方を考える場を作っていきたいと考えております。

村上監督、この度は本当にありがとうございました!そしてご参加のみなさまも、コロナ禍の中会場に足を運んでくださいましてありがとうございました!また次回お会いしましょう!

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※集合写真は、撮影のときにだけ一時的にマスクを外して行いました。


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