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報告 2022年09月11日更新
第16回映像サロンレポート
7月31日(日)にみやぎシネマクラドル第16回映像サロン「ナチュラル・ヒストリー・フィルムズ~生きる術の記録と世界の測り方~」を開催しました。
今回の発表者は、村田町在住で建築家、ブリコルール(=内なる精神をもとに身近な物や情報を集めて組み合わせ、創造・創作する人)の海子揮一(かいこ・きいち)さん。震災前から宮城県内の芸術文化に携わるお仕事をされてきた海子さんは、震災を経て人と自然の関係性をより強く意識するようになったと語ります。
時が経ち、その当時の感覚が次第に薄れていくことに漠然とした危機感を持ちながら、名取市から村田町の自然豊かな古民家に拠点を移すことになり、地域で出会った人を通してもう一度人と自然の関係性を見つめていきたいと思うようになったとのことでした。
発表者の海子揮一(かいこ・きいち)さん
そのような中で今回発表していただいた2作品は、村田町の空気感や自然の環境音とともに、そこで生活してきた人の姿や暮らしの様子が生き生きと伝わってくるものでした。
最初に上映された『けずりばな』は、お彼岸に飾られる木材を使った造花「けずりばな」職人の真壁虎雄さん(81)を追った作品です。15分という短い時間の中で、けずりばなの作業工程や季節の移ろいが丁寧に捉えられ、参加者は真壁さんの言葉や所作、表情に釘付けになりました。
上映後に紹介された真壁さんのけずりばな
続く『野点外伝2~じんじんと山和尚(やまおっさん)~』は、これまでさまざまな場所で野点(のだて=その場で絵付けをして、楽焼きという方法で焼き上げられた自作のお茶碗で、その土地の、その日そのときの風景の中でお茶を楽しむことができる移動式陶芸お抹茶屋台)を開催してきたきむらとしろうじんじん(通称じんじんさん)と、村田町龍泉寺の佐藤正隆住職(通称おっさん)の出会いを描いたものです。コロナ禍に龍泉寺で開催された野点当日の記録映像を中心に、じんじんさんやおっさんの生命観や死生観、そして社会へのまなざしを描いた作品となっていました。
参加者の中には、実際に野点に参加したことのある方やお二人を知っている方も多く、それぞれの人物の人柄や魅力、考え方がしっかり映されていて良かったとの感想が寄せられました。一方で、知らない人にとっては作品の構成が分かりづらく、どのように観て行けばよいのか、作り手が何を伝えたいのかはっきりしないといった感想も寄せられました。
また、撮影後におっさんが亡くなったという事実についても、海子さんの伝えたいことが構成上明確に伝わらないために、その扱いの必然性や慎重さについて、さまざまな議論が交わされました。それは記録者・表現者として向き合わなければならない課題や、人物の生前の記録に立ち会ったものが背負うものについて考えさせられる議論でもありました。
海子さん自身は記録者であると同時に今回の野点の主催者でもあり、さらにじんじんさんやおっさんに自分自身の思想を投影している部分もあることから、その立ち位置や編集のベクトルを上手く整理できない難しさもあったようですが、いずれにしてもその受け答えから映像に向き合う誠実な姿勢が伝わってきました。また今回の議論を経て、海子さんにとって一番伝えたいことは何かということ、それが今回の映像サロンのタイトルにも表れているということを再確認できたようでした。
今回申し込みが定員を超えたため、サブ会場とリモートで繋ぐことを試みた
参加者からは、「地域に生きている人がこうして地域の記録を残すのは大事なこと」といった声が寄せられ、また野点の関係者からも、「今回の議論を踏まえてもっとお二人の魅力が伝わる作品になることを望む」といった期待や「映画の中で描かれている物語やおっさんのやりたかったことをどう引き継いでいくかを考えさせられた」といった希望的な声も寄せられました。海子さんにとっても、今回の作品が自分の意図やコンセプトを明確に意識して「何を伝えるか」という問いにはじめて直面した作品だったとのことで、「これからも物語として生き続けるものを作りたい」「命を帯びる作品をちゃんと作りたい」という気持ちを新たにしたようでした。
海子さんによれば、今回上映した2作品は今後ブラッシュアップされ、完全版の完成を目指すとのことです。また今後も自主的に上映の機会を作っていくとのことですので、機会があれば是非どこかでご覧ください。海子さん、この度は本当にお疲れさまでした。引き続きがんばってください。そしてご参加のみなさまも本当にありがとうございました!
文責:みやぎシネマクラドル・我妻