報告 2013年10月19日更新

鷲田清一館長・随行録 - 2013年10月19日


せんだい男女協同参画財団にうかがう

レポート:佐藤泰

10月19日の午後、鷲田館長は、せんだい男女共同参画財団前理事長の遠藤恵子さんとお話しするために、アエル29階の財団事務所に向かった。エレベータを降り、事務所の中を案内されるままに進むと、仙台市街を一望できる場所に遠藤恵子さんと鷲田館長のための椅子が用意されていた。中央のテーブルには花が飾られ、ふたりの向かい側には、メディアテークから同行したスタッフと参画財団のスタッフのための聴衆席も並べられている。鷲田館長と遠藤さんの対談は財団のホームページで紹介されるのだそうだ。

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ご挨拶がてら、しばし窓外の景色を見ながら言葉を交わした後、用意された椅子に座ると、遠藤さんがまず口火を切った。鷲田館長の「フォロワーシップ」に関連して、女性のいっそうの社会進出が求められる時代に、女性のリーダーが育ちにくい、あるいはなりたがらない現状があることについて、どう思うか、という問いかけだった。

それに対する鷲田館長の考えは一貫していたように思う。現代のような縮小の時代には、先を引っ張る存在よりも、落伍者が出たり、誰かにしわ寄せがいったりしてしまわないように、全体を見渡しながら、しんがりをつとめるフォロワーこそやはり大切であり、それはこれまで多くの母親たちが自然にこなしてきたことから学ぶべきことでもある。

「NHKの「カーネーション」の一シーンで、敗戦を告げる玉音放送のあと、打ちひしがれる男たちをしり目に、「さあ、お昼にしようけ」と言って立ち上がるヒロインの姿が、本当にすばらしいと思ったんです。これこそ「しんがりマインド」で、高齢化や経済の縮小によるひずみが進む現代社会にとっても、震災から立ち上がっていく私たちにとっても、とても大切なことのように思えます。」

鷲田館長が例示したこの話は、女性の役割を固定化することを是とするものでないことは言うまでもない。人の持って生まれた属性や枠組みによってではなく、それぞれの人がもつ個性や能力、置かれた状況の中で、助け合いながら社会的な役割を担うという前提での話である。女性のリーダーが育ちにくいことについて、鷲田館長はこうも指摘した。「ワーク・ライフ・バランスというとらえかただけでなく、プライベートとパブリックのバランスをどうとるかという観点で考えてみてはどうでしょう。」民間企業の仕事は本来プライベート、人々が生きていくための地域活動は本来パブリックと考えれば、それぞれの場でのリーダー、フォロワーのありかたは、すこし違って見えてくるはずだ。困難な時代においては、解決の糸口を求めてリーダー待望論がふくらみやすいが、困難であるからこそ、多様な社会参加のありかたが、老若男女、さまざまな人々のあいだに拡がっていくことが大切なのかもしれない。

「とても自然に育児休業をとる息子を見ていても、若い世代には男女共同参画の考え方がずいぶん浸透してきたと思います。しかし団塊世代より上になるとまだまだです。助けを求められずに孤独死する高齢男性の増加は、そんな状況を示すものかもしれないと心配しています。」と語る鷲田館長の言葉には、男女の枠にとらわれない人間そのものに対するまなざしが貫かれていた。

対談の途中、二人の話に聞きいっていたスタッフたちが、やおら歓声をあげた。対談の背景となる窓越しに、大量の風船が一斉に舞い上がったのだ。商店街あたりのイベントか、色とりどりの風船が風に流されていく。「ほら先生、後ろきれいですよ」という声につられて、お二人もしばし風船の行き先を追う。
対談の途中、二人の話に聞きいっていたスタッフたちが、やおら歓声をあげた。対談の背景となる窓越しに、大量の風船が一斉に舞い上がったのだ。商店街あたりのイベントか、色とりどりの風船が風に流されていく。「ほら先生、後ろきれいですよ」という声につられて、お二人もしばし風船の行き先を追う。

対談のおわりごろ、遠藤さんは「印象に残っている風景を教えてください」と切り出した。「コンクリートのすき間から生えている草、砂漠の波紋や波打ち際のようす、古い横丁のような雑然とした街並」などをあげ鷲田館長は「京都人だからと言って誰もがお寺が大好きなわけではないんです」と続けた。日本を代表する文化や歴史が凝縮された京都に住んでおられるからこそ、日常のなかの小さな生々流転のありさまに心ひかれる、ということもあるかもしれない。「メディアテークは使いにくいという意見もあるが」という少し辛口の問いに対しては、メディアテークの開放的で個性的な空間を活かすことこそが、人々のより創造的な活動や社会参加を生み出す力になること、またこれからは、こうしたメディアテーク特性にさらに磨きをかけるだけでなく、子供たちも含めて人々をふんわりと包み込むような環境づくりにも挑戦したいとの考えを述べて、約1時間にわたる対談は終わった。

対談のあとは、スタッフの佐藤莉乃さんの案内で、財団が指定管理者として運営する「エル・ソーラ仙台」を見学する。28階の広々としたフロアには、図書コーナー、ミーティングテーブル、キッズコーナーなどが壁で仕切ることなく配置され、たくさんの人が思い思いに利用していた。鷲田館長は、メディアテークとも共通するワンルーム型の配置が、人々にうまく活用されていることに感心しつつ、キッズコーナーや図書コーナーの運営にも興味を示していた。

28階の窓からは、沿岸部の津波がまきあげる煙が見えたとのこと。高層ビルの揺れは本当に恐ろしかったが、スタッフがとても冷静に対応してくれたおかげで、けが人も出ずにすんだそうだ。
28階の窓からは、沿岸部の津波がまきあげる煙が見えたとのこと。高層ビルの揺れは本当に恐ろしかったが、スタッフがとても冷静に対応してくれたおかげで、けが人も出ずにすんだそうだ。

男女共同参画に関する図書コーナーの一角には、スタッフのおすすめ本が、抜き書きとともに平置きされている。「利用者にとってだけじゃなく、スタッフのみなさんにもとてもいい取り組みですね」と鷲田館長。
男女共同参画に関する図書コーナーの一角には、スタッフのおすすめ本が、抜き書きとともに平置きされている。「利用者にとってだけじゃなく、スタッフのみなさんにもとてもいい取り組みですね」と鷲田館長。

※今回うかがった場所

○エル・ソーラ仙台

仙台駅のすぐそばのアエル28・29階にある施設。28階は研修室や市民交流・図書資料スペースなど市民の主体的な活動に利用できる。29階には相談窓口があり、女性の生き方に関する相談に応じている。また、男女共同参画社会の実現に向けたさまざまな講座やイベントを実施している。公益財団法人せんだい男女共同参画財団が指定管理者として運営にあたっている。

http://www.sendai-l.jp/whats_ls/

○公益財団法人 せんだい男女共同参画財団

http://www.sendai-l.jp/

※今回お会いした方

○遠藤恵子さん

山形県立米沢女子短期大学学長。

宮城県内市町の男女共同参画推進審議会などの会長として、基本計画の策定に貢献するとともに、仙台市男女共同参画推進センターを管理する(公財)せんだい男女共同参画財団の初代理事長を務めた。日本女性会議2012仙台の開催にも尽力したほか、東日本大震災後は、女性の視点による被災者支援、復興を先導する女性の育成に取り組んだ。東北学院大学教授を経て、平成16年4月から同短大学長として赴任。米沢市男女共同参画審議会委員長。平成25年度男女共同参画社会づくり功労者内閣総理大臣表彰を受賞。


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