コラム 2020年10月15日更新

「まち・ひとスケープ」#19 


【コロナ対策~「窓を開ける」ほうがいい場所と「窓を開けない」ほうがいい場所】

まち・ひとスケープでは様々な暮らしの環境や人の営みについて、それぞれの活動に適した媒体で記録を残す活動をしています。動画記録をyoutubeに載せたり、ブログに書いたり、冊子やCD、ポスター、スライド(パワーポイントなど)形式など多様です。
今回は新型コロナ感染症(COVID-19)の流行がパンデミックのレベルとされ非常事態宣言が出されたような状況で「窓を開けよう」という呼びかけについて「どう受け止めて行動すればよいのか」正しい判断をするために必要な知識をポスターとして掲示した活動を取り上げました。

24時間換気装置が無い、気密性能の良くない古い建物の場合は「窓を開けましょう!」は正しい換気対応といえます。しかし、「窓を開けない」方が、適切に換気コントロールができる建物があるのです。

№1~№3は#17で取り上げた宮城野納豆製造所のフリーレンタル空間「となりのえんがわ」について、そこで掲示されたポスターがなぜ作られたのか、その意味と受け止めをフォローした安井妙子の報告です。窓を開けようとする利用者に「窓を開けないでください」とお願いしたケースです。

■No.1 物置が「となりのえんがわ」になるまで


まち・ひとスケープではで2019年12月11日に#17【宮城野納豆製造所を訪ねて】(仙台市宮城野区銀杏町)で動画をUPしました。

https://www.smt.jp/projects/scape/2019/12/19.html


それから間もなく新型コロナウィルスの流行が始まりました。動画の後半で仙台市宮城野区銀杏町にて(有)宮城野納豆製造所社長三浦晴美氏が個人として経営するフリーレンタル空間「となりのえんがわ」が写っています。この建物は、かつては宮城野納豆製造所の製造する液体に溶かし込んだ納豆菌をガラス瓶に入れて包装し、全国に出荷するための施設でした。(1960年代頃は宮城野納豆製造所の納豆菌が全国に占める割合は80%といわれています。現在でも20%です。)ガラス瓶であるため、割れないように物々しい包装が必要でした。ところが近年は納豆菌の容器が割れないプラスチックになったため包装が簡易になり大げさな施設が不要になりました。そこで、この昭和10年頃の建物は物置として使われていました。
動画のインタビューにあるように、登録文化財宮城野納豆製造所社長三浦晴美さんは、「自分の所有する資産を地域に開かれた施設として役に立てたい」というお考えを持っていました。
安井妙子は30年ほど前から古い建物(元禄から昭和)に高断熱・高気密・耐震補強を施して21世紀の暮らしや、活用を可能にすることを信条として仕事をしていました。2019年の宮城野納豆製造所に続いて2020年3月に国登録文化財になったすぐ近くに建つ(同宮城野区原町三丁目)明治7年の「鳥山米穀店」の鳥山さんも安井が高断熱・高気密・耐震補強を施して21世紀の暮らしをなさっています。
このことを理解した三浦社長は、ご自分の考えを実現するために安井に改修工事の設計を依頼しました。建物は2017年末に完成しました。レンタルスペースは少しずつ知られ、2019年半ばにはなかなか予約のとれない施設になっていました。動画に見られるように国際的に評価されたステンドグラス作家の作品展が開かれたりしました。

■No.2 新型コロナウィルス流行の日々


「窓を開けて換気をしましょう」という言葉が、マスコミから流れて来ない日は無いという状態になったのです。「となりのえんがわ」の使用者も窓を開けていたそうです。
高断熱・高気密補強をする目的は何だと思われますか。それは建築物を計画的に換気のできる器にすることです。新鮮空気をどこから入れてどこから出すか。これを設計するのが設計者の大事な仕事です。しかし、建物がスカスカでは空気がどこから入ってどこから出ていくか管理することができません。初期のころは「航空機のように気密にするのです」と言って説明していました。
単位時間に何立方メートルの新鮮空気を取り入れて、それに見合う屋内空気を排出する経路を設計します。建物が気密になっていれば空気は設計したとおり動いてくれます。「となりのえんがわ」はそういう建物になっているのです。
三浦さんは悩みました。「ちゃんと換気しているのにわかってもらえないのよねえ」というお悩みに答えるために、次のようのような文書を作ってお届けしたところ壁に張ってくれました。

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「となりのえんがわ」に貼られたポスター


厚生労働省のホームページにある文書も付けました。
困ったことに現在日本中に建っている建物の内、多くはスカスカの建物なのです。古い建物はほとんどがそうですが、新しくても気密性能を上げるには建築業者さんがたいそう気を付けて施工しないと性能が上がらないことが多いからです。
しかし何よりも気密な建物は良くないと考えている日本人が西日本や東日本に多く住んでおいでです。そして悪いことに、国の基準では断熱基準は決めていても気密の基準はある時に抜け落ちてしまったのです。気密性能を大に思っている私の仲間の建築関係者はびっくりして怒りましたがどうにもできませんでした。
これは由々しきことです。なので気密性能の高い建築物が日本中に普及しない訳です。ということは換気扇を回してもその性能が発揮できない家々が多いので、コロナウィルスに立ち向かうには窓を開けてくださいとマスコミが叫ぶわけです。仕方がないので、窓を開けるしかありません。しかし「となりのえんがわ」は違います。窓を開けなくても24時間連続換気が行われていてしっかり換気ができています。

■No.3 公共交通機関の対応

9月の中旬のある日私は仙台市泉中央駅発将監団地行きのバスに乗りました。
「このバスは3分で車内の空気が入れ替わります。窓を開ける場合はほかのお客様にご配慮ください。(観光バスは5分です)」というポスターが張られていたのです。そうです、バスは気密性能が良かったのです。窓を開けるなとは書けないので、ご配慮をと書いたのですね。
私の友人は上越新幹線に乗ったら「新幹線は8分で空気が入れ替わりますのでご安心ください」と車内アナウンスがあったと教えてくれました。新幹線の窓は開きませんよね。新幹線やバスは気密性能が良く計画換気ができているのです。先に挙げた航空機も同様です。

建築基準法で2003 年7 月から機械でおこなう換気が義務付けられました。これを怠ると確認申請を確認してもらえません。建物が建てられないということです。

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厚労省サイトより https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf


建築基準法では、室内にいる人には常時1 時間に30 立方メートルの新鮮な外気が必要、また、1 時間に室内の空気の2分の1が新鮮な外気と入れ替わること(換気回数0.5 回と言います)としています。厚労省は上図にのようにこれを満たせば「換気の悪い空間」には当てはまらないとしています。
2003年以降のすべての新築建築物に屋内の容積に応じて計算した能力を持つ「24 時間連続運転」の換気扇が設置されています。換気能力に応じた給気口も適切な位置に設計の上、設置されています。
ですから「24 時間換気」をしている建物は窓を開けなくても十分な排気と給気がなされています。

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安井妙子が2017年に修理した多目的レンタルスペース「となりのえんがわ」は、新築ではありませんが、法に従って「24 時間連続運転」の換気扇を設置していますので、利用者にポスターでお願いをしました。しつこいようですが、換気扇を24時間連続運転することが肝要なのです。    

文責:安井妙子     


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