インタビュー 2018年10月22日更新

発案者・篠原章太朗さんインタビュー(1)


2018 年 8 月 25 日(日)せんだいメディアテークにて
スローウォークをはじめた篠原章太朗さんにお話を伺いました。

すごく五感が研ぎ澄まされるっていうことに気づいたんですよ。周りの情報が洗練されているなあというのを感じて、その瞬間にとてつもない感動を覚えたんです。

ちば:そもそもスローウォークをやりはじめたきっかけのようなものがあったら聞かせてください。

篠原:きっかけ...。今、スローウォークといって思い出すと、そのとき学生だったんですが、当時仙台で住んでいた窓のない部屋と漠然とした将来の不安、ということを思い出します。簡単に言ってしまえば、お酒買って歩いてって、その「歩く」ことをゆっくりやってみようかなって思った、っていうのがきっかけなんですけど。 背景としては、なんか漠然とした不安というか、そういうのがあった中で...なんて言うんだろうな。

ちば:...現実逃避的な?

篠原:それに近いですね。そういうことを最初にやってみたんですよ。休日飲むしかないから、酒飲んで無茶苦茶になってやろう、っていうのが最初にあって、飲んでいるだけだとつまらないからゆっくり歩いてみようと思って、それでゆっくり歩いてみて気がつくと、すごく五感が研ぎ澄まされるっていうことに気づいたんですよ。周りの情報が洗練されているなあというのを感じて、その瞬間にとてつもない感動を覚えたんですよ、ひとりで。うわすげぇやこれ、みたいな。で、それがちょっと病みつきになっちゃって。毎週だいたい 10 時~15 時くらいまで商店街を練り歩いていたっていうのが、ま、きっかけというか、はじまり。
お酒っていうのは、スローウォークに入るためのただの導入剤なんです。確かに、(お酒が)あってもいい、なくてもいいっていう議論はあったと思うんだけど。私の場合は、それがないと自分の世界に入り込むことができなかった。トランスっていうか。それで、昼間にやる理由っていうのは、言葉にするのはすごく難しいんだけど、自分と他者との関係が・・・なんていうのだろうね。昼間は周りに人がいっぱいいるじゃないですか。

白鳥:はい。

篠原:そうなると自分がすごく浮き彫りになるのを、自分で感じるんですよ。俺、変なことやっているなって。すごくゆっくり歩いているし、気持ち悪いなっていう「隔絶感」がでてくる。それがないと、なんかね、入り込めなかったんですよね。「静かな町でやれば」っていう話もあったりもしたけど、どうもそういうところでは、ただの酔っ払いにしかならなくて。 その、周りから見られているっていう気持ちが、悪い酔いを抑えてくれて、一方で、感覚を研ぎ澄まされているために、よりお酒がまわっていく、そういう感じがありましたね。

ちば:なんだろう...

篠原:そう。本当、言葉にするのがすごく難しいんですよ。

ちば:私がスローウォークを始める前に、何度か違う場所でスローウォークについて話を聞く機会があって。仙台藝術舎の「紙でしかできない、本づくりを設計する~『S-meme*』の試みを中心に」という授業の中で、五十嵐太郎先生がS-memeの紹介をしていたとき、スローウォークの話も出ていたんです。

篠原:ネタになりやすいですよね。

ちば:そう。それで、これはやりたいな、やっぱりと思って。
S-memeにスローウォークを提案する前は、ひとりで何回もやっていたんですか?

篠原:うん、もうずっと。ホントに楽しくてやっていましたね。 ある瞬間、パッと切り替わって、あ!みたいなのとか、スゴイ!っていう感動みたいなのを見つけて。

ちば:S-memeに提案したときの皆の反応とかって何か覚えていますか?

篠原:皆の反応は覚えてないですけど、五十嵐先生の反応はよく覚えていて、「篠原くん、圧倒的だね」って言っていましたね。その時は、俺バカにされた、と思ったんだけど、五十嵐先生と「やってみよう、やってみよう」ってことになって、S-memeのスタジオ生徒と五十嵐先生含めて仙台で実践しました。その感想等をまとめて、S-memeに収録しようということになりました。写真とメモで記録を残していて。その時も色々な感想があってとても面白かったんです。
スローウォークの話題は、せんだいスクール・オブ・デザインの講義に来て下さった講師の方々からも興味を持たれて、色んな話をしました。スローウォークを皆で実践した翌年に、あいちトリエンナーレ2013があって、せんだいスクール・オブ・デザインでも、せんだいスクール・オブ・デザイン あいちトリエンナーレ分校を開催することになっていて、いくつかあるプログラムの中にスローウォークを取り入れて頂きました。
あいちトリエンナーレのキュレータ(拝戸さん)にお世話になって、事前に名古屋に行って商店街の方々にスローウォークの説明をして、実験的にスローウォークをさせて頂いたり、その後、円頓寺商店街で実践したりしました。

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今、関心があるのは、スローウォークが目的を持ったときに、何を生みだすのだろうなっていうこと。

篠原:俺がね、当時からスローウォークを自然にやらなくなったのは、自分でも不思議なんですけど、最初に言った漠然とした不安がなくなった、っていうのが理由のひとつで。 それと、もうひとつは、五十嵐先生がおもしろいって言ってくれて、あいちトリエンナーレに参加させていただいたりして、「スローウォーク」っていうのが目的を持った瞬間からちょっとおかしくなってきたっていうか。本当に難しくて、当時は目的がないことに一つ意味があったんですよ。

ちば:無目的ね。

篠原:無目的で歩いてみたときに、いろんな音とか情報がばーっと入ってくる中で、そのときの体調とかによって、耳が鋭くなったり、世界が全体として動いている感覚をすごく感じるようなことをできていたんです。けど、目的を持った瞬間に、たとえば「皆で一斉にやろうぜ」っていうことをあいちトリエンナーレでやったんですけど、結果として何が得られたのかっていうと、私にもわからないです。まとめることができなくて、「あー、あったねえ」で終わって。本当に、ホント難しいです。 ちばさんが悩んでおられる、「可視化する」とか「文章化する」。そういったことをした後、映像で見たり文章で読んだりした人は、本当にその体験について感じられるかっていうと難しいというか。

白鳥:そうですよね。

篠原:私にはできなかったんですよね。 今、関心があるのは、スローウォークが目的を持ったときに、何を生みだすのだろうなっていうこと。

ちば:今年の2月に、スローウォークに興味がある学生の子達と一緒に、定禅寺通りからディズニーストアのあたりまで 1 時間半かけて歩いたんですけど、寒くて! 日向と日陰を行ったり来たりしながら(笑)。

篠原:そうそう、そういうのも感じるようになるのですよ。

ちば:そうですね。いつもは聞こえない音が耳に入ってきたり、看板がすごく目に刺さってきたりとか、そういったことをみんなで共有できたのも面白かったし。お酒は飲まないで、とりあえず歩くところからやってみようということで。でも、いざこんな風に目的を持つとなると、どうしたらいいんだろうって。

篠原:ま、だからスローウォークについて、ちばさんたちから新しい見方が出ればなあと思うんですけど。確かに、スローウォークを再考してみて、何だったのかって言われると、難しかったりするけど、なんていうんだろうね、街に溶け込む一つの方法なのかなって気もします。いろんな方法がある中の。


*S-meme
「S-meme(エスミーム)」は仙台の文化トピックにテーマを当て制作される文化批評誌である。東北大学大学院都市・建築学専攻が仙台市と連携し運営する教育プログラム「せんだいスクール・オブ・デザイン(以下 SSD)」の「メディア軸」スタジオ成果物として、受講生による仙台の文化のリサーチを元に、毎回異なるテーマで一学期(半年)毎に一冊制作される。また、内容と連動した特徴的な装幀デザインが採用されている。


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