コラム 2022年01月26日更新

参加してみた:東日本大震災アーカイブシンポジウム


2022年1月10日に開催された「東日本大震災アーカイブシンポジウム―震災記録を残す、伝える、活かす―」にオンラインで参加しました。国立国会図書館と東北大学災害科学国際研究所が共同で主催するこのシンポジウム、今回は会場参加とオンライン参加のハイブリッド開催でしたが、ともに満席(オンラインで席という表現が正しいのかわかりませんが)というところから、注目度の高さがうかがえます。

震災からもうすぐ11年、震災記録の「伝承」に向けた様々なアーカイブの取り組みが各地で行われています。これまでは記録を「収集・保存」することに主眼を置いて行われてきた活動であっても、これからはそれらの記録を後世へどう継承していくか、集まった記録をどう利活用していけばよいのかという課題に直面しています。記録の「利活用」についてはここ数年でさまざまな議論がされてきていると思いますが、もちろんメディアテークにおいても例外ではありません。震災後に開設した「3がつ11にちをわすれないためにセンター(略称:わすれン!)」でも、いままさに記録をどのように利活用していくか」が課題です。私はこの「わすれン!」の担当でもあるので、今回の「震災記録を残す、伝える、活かす」というテーマに興味を持って参加しました。

このシンポジウムでは、主に「防災」という目的に向かってどのように教訓を継承していくか、そのために記録をどのように活用できるか、という問題意識を土台に議論が行われていましたが、その中で、コミュニティ・アーカイブという視点から印象に残ったプレゼンテーションを2つ紹介しつつ、雑感を述べてみたいと思います。

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○3.11オモイデアーカイブ「"体験を同期する"というアーカイブの使い方」

3.11オモイデアーカイブ代表の佐藤正実さんは、記録を「残す、伝える、活かす」ための方法として「体験を同期する」ことについてお話をされました。たとえば一枚の写真に記憶(エピソードや状況説明などの言葉)も合わせて記録し、他者とイメージを共有できるものにすることで、「個人の体験」を「みんなの体験」として活用できるのではないか、という可能性について言及されています。

これまでに3.11オモイデアーカイブのもとに集められてきたのは、市民らが撮影した震災時における身の回りの生活の写真です。たとえばジャンパーを着ながら炊き出しを食べる子ども、公園の水道で水汲みに並ぶ人たち、震災から1ヶ月でやっとガスが開栓したときの写真など、主にマスコミが入れないような個人的な場所(家の中や近所)で撮影されたものだそうです。これらは震災の被害を語るには物足りないような記録かもしれませんが、津波や地震の大きさだけを伝えるのではなく、その後どのような生活を送ったのかという肌感覚を伝えることができる可能性を持った記録であるからこそ、過去の災害を今の生活と地続きのものとしてとらえ、見た人が自分の言葉で語り出せる装置として活用できるのではないかと提案されました。

そして、このような記録を使い続けるにあたり、佐藤さんが最後に語られた「変化していくものに合わせた言葉を繋ぎ合わせていく作業が重要」という言葉が心に残ります。記録した人とそれを見る人では写り込んでいるものの捉え方が異なる。そして年々写真の意味も変化していく。だから、1枚の写真に100個のキャプションがあってもいい。「あなたにとっては何が写っていますか」と聞いていく作業が必要だとお話されました。

記録を前にたたずむ人が語り出すためのしかけをつくり、ただひとりにとっての体験がみんなの体験として共有されていくこと。私たちが「コミュニティ・アーカイブとは何だ?」ということを日々考える中で重要な視点(かもしれない)と思っている「アーカイブをひらいていく」という営みにおいても、とても重要なお話を聞くことができました。

○「ひなぎく」の閉鎖アーカイブへの対応

国立国会図書館の東日本大震災アーカイブ「ひなぎく」については、中川透さん(電子情報部主任司書)が「閉鎖アーカイブの承継と利活用に向けた取組について」と題して発表をされました。一般にはあまり知られていないかもしれませんが、ひなぎくは、震災に関する記録を一元的に検索・閲覧・活用できるポータルサイトで、自治体や図書館、学術機関や報道機関などのさまざまな個別のアーカイブと連携し、国内外に分散している震災記録を国全体として収集・保存・提供することを理念としています。「わすれン!」のウェブサイトも連携しています。
キーワード検索はもちろん、資料の種類(文書、写真、映像など)や、場所、日付などの切り口からカテゴリー検索もできるので、記録資料を探すときに役立ちます。

そんなひなぎくでは、さまざまな理由で維持が難しくなったアーカイブ機関が持つ資料(デジタルデータに限る)を消失させないために、ウェブサイトごと承継する仕組みがあるそうです。基本的には「WARP(国立国会図書館インターネット資料収集保存事業)」という、日本国内のウェブサイトを自動で収集・保存するシステムを活用して承継を行っており、管理していたウェブサイトが閉鎖したあとでも、ひなぎく上で検索をすれば以前と同様にページを閲覧することができます。(具体的な手順については、ひなぎくにお問い合わせください)

ちなみに、「わすれン!」周辺でも、ここ数年アーカイブの閉鎖にまつわる話がいくつかありました。仙台市沿岸部の旧中野小学校区の地域住民が震災後に立ち上げた「なかのコミサイ(中野小学校区復興対策委員会コミュニティサイト)」も、ウェブサイトの運用終了後、2017年にこのシステムを利用して国立国会図書館に保存されています。そのおかげで、ウェブサイトが閉鎖した現在でも、全国どこからでもアクセスすることができるようになっています。
また、ひなぎくとは関係ありませんが、大学生・留学生たちが立ち上げた任意団体「Project-San-Eleven」では、中心メンバーの卒業にともない団体の活動に幕を下ろすこととなり、震災のことを語る場としてひらいていたウェブサイトの運営を一区切りすることになりました。そこで現在、ウェブに掲載していた学生たちの震災体験談などを冊子にまとめるお手伝いをしています。

震災から時間が経ち、あらゆる事情でアーカイブを閉鎖せざるを得ないケースが増えていると思います。運営者がいなくなることで、アーカイブ資料がアクティブに使われる状況にはなくなってしまうかもしれませんが、閉鎖の際の選択肢のひとつにひなぎくがあることは、資料の消失を防ぐことはもちろん、アーカイブ活動を推し進める上でも一定の安心材料になるのではと思います。
中川さんのお話を受けて、閉鎖することを前提にアーカイブを構築しようとするとオリジナル性が失われてしまうという懸念も示されました。たしかに承継ありきでは皆同じようなアーカイブシステムになってしまいかねないのかもしれません。ただ、(これはひなぎくへの承継に限らずですが)終い方を意識しながら現状と折り合いをつけつつ活動を行うことは、50年100年とアーカイブを残していく上では重要な心構えなのではないかと考えさせられました。

参考:令和3年度東日本大震災アーカイブシンポジウム-震災記録を残す、伝える、活かす-

佐藤友理(せんだいメディアテーク企画・活動支援室)