コラム 2022年03月17日更新

読んでみた(3冊):3.11キヲクのキロク、そしてイマ。2021/わたしたちの中野/中動態の映像学


せんだいメディアテークでは、2011年の東日本大震災発災後まもなくから、市民協働型の震災アーカイブのプラットフォーム「3がつ11にちをわすれないためにセンター」(https://recorder311.smt.jp/)を開設しています。そこで、今回はその取り組みにも関わる3冊の本を読んでみました。



『3.11キヲクのキロク、そしてイマ。2021』

この本は『3.11キヲクのキロク--市民が撮った3.11大震災記憶の記録』(編著:NPO法人20世紀アーカイブ仙台/2012年/NPO法人20世紀アーカイブ仙台)から10年後にまとめられたもの。前作がSNSで募集した一般の方の写真をまとめたものであるのに対し、今作はそれをきっかけにメンバーが集まり定点写真を撮りつづけた成果です。10年の変化を示す写真の意味はもちろん、私たちコミュニティ・アーカイブ・ラボラトリーとしては、人々が撮った記録のまとまりがきっかけとなって、また新たな人々が記録活動に乗り出したことにグッときます。

巻末には定点写真を撮りつづけたメンバーによる座談会があります。写真で記録をすることの大切さはもちろん、むしろ力説されているのは、その写真を使うこと、写真を起点にして語り合うことの大切さです。これもまた、コミュニティ・アーカイブを考える上でポイントになるように思いました。

3.11キヲクのキロク、そしてイマ。2021』(企画・制作・発行:3.11オモイデアーカイブ/2021年)
(出版元のサイト)
http://sendai-city.net/omoide/2022/02/04/post-2376/



『わたしたちの中野』

1986年(昭和61年)に発行された本を古本屋で見つけました。仙台市沿岸部の中野小学校区の一部は、東日本大震災で災害危険区域に指定されています。そこには自然あふれる蒲生干潟があり、農業や漁業や工業があり、自然や人の営みとともに編まれてきた固有の歴史があり......という地域のさまざまな事柄がわかりやすく、オールカラーで記されています。2015年には、刊行から30年を経て1000冊の復刻版が作成され、被災した地域住民の方々に配られたそうです。震災前の暮らしが見えるこの本は、昔を懐かしむ大人のみならず、震災後に生まれた子どもたちが自分のルーツを知りたいと思った時や、コンクリートに囲まれた暮らしに心許なさを感じた時、心の拠り所になるのかもしれません。

私が育った地域にも、地元小学校の校長先生が発行した自費出版本があり、足元の歴史を知りたいと思った時にとても役立ちました。きっと日本中さまざまな場所にこのような本があり、長いあいだ大切に読まれ続けているのだろうと思います。地元の人によって記録されたその土地の本には、月日が経っても色褪せない魅力と価値があると感じます。

『わたしたちの中野』(編集・発行:仙台市立中野小学校/1986年)
*仙台市図書館で読むことができます。 https://lib-www.smt.city.sendai.jp/



『中動態の映像学』(著:青山太郎/2022年/堀之内出版)

「映像学」というと、アーカイブそのものからは少し話がそれるかもしれません。しかし「3がつ11にちをわすれないためにセンター」と、そこに参加した作家(酒井耕・濱口竜介、鈴尾啓太、小森はるか)を取り上げていることもありますし、「中動態」という言葉が何かヒントになりそうな予感がして読んでみました。

とはいえ「中動態」という言葉はやや耳慣れません。能動態と受動態の間......難しい。この本のなかでは「その動作によって自らの主体性そのものを同時に生成変化させる行為のあり方を示す概念」とされています(本書p.5)。やはり難しい。でも、何かを作りながらだんだんやり方が見えてくる感じと言われれば、まさしくコミュニティ・アーカイブにも当てはまるような気がします。自分たちのことを自分たちが主体となって記録・保存していくうちに、そのことの意味や自分たち自身がわかってくるような感じと言いましょうか。

『中動態の映像学』(著:青山太郎/2022年/堀之内出版)
(出版元のサイト)
https://info1103.stores.jp/items/61cc0b291dca321edaeb8ba9




小川直人・佐藤友理(せんだいメディアテーク企画・活動支援室)


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