コラム 2022年08月05日更新

聞いてみた:仙台市民図書館の郷土資料について


今回はメディアテークのなかにある仙台市民図書館・郷土資料担当の渡邉啓市さんにお話をうかがいました。
現在、仙台市民図書館には7人の郷土資料担当者がいます。そのうちの一人である渡邉さんは市民図書館勤務3年目で、もともと郷土資料が専門ではなく、市職員としてまちづくりや福祉など様々な分野の業務を経ているのだそうです。では全く関係ないところから現担当になったのかというとそういうわけでもなく、過去に務めた業務のなかには市内の住居表示に関することをして、町名変更の手続きに関わったり町名の由来を調べることなどもあり、つまり土地の歴史を調べることにつながり、当時得た知識が巡り巡って活かされていると話します。


全国の主要な公共図書館には必ずと言っていいほどある「郷土資料コーナー」ですが、仙台市民図書館も4階の本棚は郷土に関する書籍と資料で埋め尽くされています。仙台市民図書館の4階は、3階からのみ階段と専用エレベータでアクセスできる中二階となっています。階段をあがるとまず目に入るのは、メディアテークの柱を囲むように配置された郷土展示コーナーです。月ごとに入れ替わる展示内容は様々で、今年度の展示には「過去に地方新聞で取り上げられた伊達政宗騎馬像記事にみる政宗像の倒壊と修復・復活について」や、「『せんだいタウン情報誌S-style』の1975年創刊号からのバックナンバー」など、仙台市を軸にバラエティ豊かな企画がされており仙台を意外な視点から深掘りしています。


本棚には歴史書や公文書など重そうな本が並ぶ中、「市民図書館 ゆかり文庫」と大きく掲げられたコーナーがあります。ここでは仙台市に関わる人物の著書や関連書籍がまとめて配列されています。せんだいメディアテークを手掛けた建築家・伊東豊雄はもちろん、伊坂幸太郎、佐伯一麦や荒木飛呂彦など仙台ゆかりの著名人が一目瞭然です。さらに注目したいのが「ゆかり文庫」コーナーにそっと置かれた「郷土ゆかりの人」というお手製小冊子。このA5サイズの冊子には所蔵資料のなかから肩書や時代を問わず仙台に関わりのある人物が200人以上並びます。以前リストを展示した際に反響があり小冊子を作成したそうです。
郷土資料は基本的に職員の調査や古書店での仕入れ、市民からの持込や寄贈により収集されます。本の形をしたものがほとんどですが、ノートやリーフレットのような資料までも寄贈されることがあるそうです。また、市民からの問合せによって発見することもあります。


問合せ対応(レファレンス)の内容もさまざまです。「〇〇という人が載った文献はあるか」という書籍探しもあれば、"ご先祖探し"で資料を探す相談もあり、中には調査に時間を要する難題も。例えば...と渡邉さんが話してくれたのはこんなお問合せです。
----1948年にプロ入りして東急フライヤーズ(現・日ハム)や巨人で活躍した野球選手「吉江英四郎」の経歴を調べたいという問合せがありました。調査をすると、大学は早稲田、高校は仙台一高、その前はカナダ在住という事実まで遡って辿れた。しかしなぜカナダにいたのか?そこから全く情報が見当たらない。行き詰まったところで、カナダ移民の文献があったな...と当たってみるとそこに同じ苗字があるではないか。それを手がかりにさらに調べていくと、どうも両親が外交官だったようだ。さらに、気象学者であり小説家の新田次郎の著書に両親のことが書かれている!----
思わぬ文献から情報を発見することもあるためジャンルを越えてあらゆる資料から洗い出します。こんなワクワクする事例を渡邉さんは楽しそうに教えてくれました。徹底した調査ですが、あくまで問い合わせたご本人が調べるための資料を紹介するのが図書館の役割だそうです。


市民図書館の郷土資料は書籍だけではありません。4階のさらに奥に進むと背が低く奥行きのある棚が並び、そこには仙台の古地図が保管されていました。江戸時代初期の日本地図の集成や、仙台の文化財分布地図、中には「米軍撮影」と記された空襲計画の記録も含まれます。100年以上前の地図は、大名お抱え絵師による手描きのせいか、複製印刷とはいえ色鮮やかで見応えある絵図でした。
古地図のさらに奥の棚にはマイクロフィルムが保管されています。マイクロフィルムとは書類や図面を微小サイズに縮小してフィルムに記録したものです。市民図書館に所蔵されているのは新聞記事の記録です。新聞社に依頼して作成しており、最も古いものは明治33年、最新は令和元年のデータがマイクロフィルム に変換され保存されていました。カウンターに申し出れば図書館にあるマイクロフィルムリーダーを使って閲覧ができます。

最後にせんだいメディアテーク地下2階にある書庫も見せてもらいました。そこには非公開で保管目的の重要資料・貸出頻度が少ない資料等が保管されています。例えば漢書や和書といった貴重なものや外国語の絵本など。書庫には職員が常駐していて、問合せがあれば書庫から34階へ資料をリフトで運びあげます。
また、仙台市民図書館でいう「郷土」は仙台市が中心ですが、宮城県また広くは東北地方を越えて指すこともあるとのこと。例えば、札幌市白石(しろいし)区の資料があります。戊辰戦争に敗れた旧幕府軍についていた仙台藩・白石(しろいし)城主の家臣たちはその後北海道へと移住しました。彼らの手により開拓された地域は現・札幌市白石区で150年以上経った今でも宮城県白石市の友好都市として交流が続いているからです。

市民図書館内を見学してみて、図書館の郷土資料と一口に言っても様々な種類がありました。古地図やマイクロフィルムは特に郷土資料ならでは。書物だけでも、公文書から個人の手記まで取り扱う幅の広さで、資料収集にかけられる時間と必要な知識はどれだけ膨大なのか...と思うと同時に図書館職員による資料の見せ方の工夫も見ることができ、他の公共図書館ではどんな郷土資料で本棚を作っているのか興味が湧きました。




(市民図書館ウェブサイト内〈郷土資料について〉)
https://lib-www.smt.city.sendai.jp/?page_id=357



北友花(せんだいメディアテーク企画・活動支援室)


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