コラム 2022年12月06日更新

リサーチレポート:20世紀アーカイブ仙台/山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー


今回は私たちが「コミュニティ・アーカイブ・ラボラトリー」と合同で20221122日と23日に行った、NPO法人20世紀アーカイブ仙台と山形ドキュメンタリーフィルムライブラリーの視察についてレポートいたします。

 

その前に少しだけ自己紹介を。この文章を書いている私は青山太郎といいまして、駆け出しの映像学者です。現在は愛知県内の私立大学に所属していますが、2013年ごろからせんだいメディアテーク「3がつ11にちをわすれないためにセンター」(「わすれン!」)についての調査を行ってきました。20221月に上梓した拙著『中動態の映像学』という研究書のなかでも、「わすれン!」や災害関連の映像アーカイブなどに言及している関係で、メディア論研究者の門林岳史さん、社会学者の相川陽一さんとともに、「コミュニティ・アーカイブ・ラボラトリー」のメンバーとの合同調査を行うことになった次第です。

 

今回視察した20世紀アーカイブ仙台と山形ドキュメンタリーフィルムライブラリーはそれぞれに異なる性質のコレクションをもつ組織ですが、地域に縁のある貴重な映像を保存しているという点では共通し、それぞれに独特の魅力をそなえていると言えます。同時にアーカイブをめぐるいくつかの課題も見えてきました。それはコミュニティ・アーカイブなるものの一般的なあり方を考える上でも重要な示唆を与えるもので、以下、そのいくつかを書き留めておきます。

 

20世紀アーカイブ仙台の活動の柱のひとつは8mmフィルムの収集・保存です。これはNPO法人の理事長である坂本英紀さんが経営する会社で行っていた、フィルムをビデオ(VHSDVD)に変換する事業に始まります。その仕事をするなかで坂本さんは、東北地域のさまざまな場所の、かつての姿や文化を思い起こさせる映像の魅力に気づいたそうです。そこで、坂本さんは営利活動としてのビデオ変換とは別に、フィルムのアーカイブ事業を展開していきます。具体的には、寄せられたフィルムを無償でビデオに変換して提供者に返却しつつ、20世紀アーカイブ仙台でもその映像を保存し、かつそれらを使用することの許諾を得る、というものです。実際に坂本さんたちは、収集したフィルムを用いた上映会を各地で開催しているそうです。また、「回想法レクリエーション」という、映像上映後に参加者に思い出を回想してもらい、語ってもらうというイベントも定期的に実施しているとのことでした。今回の視察では、そうしたイベントを通じて制作したブックレットも拝見しましたが、そこに書かれている言葉からは、参加者の方々がかつての日々を鮮明に思い出して懐かしんでいる様子がありありと伝わってきました。

これら収集した映像については「テレシネ」と呼ばれる変換作業のなかで坂本さんたちが内容を確認し、それをノートに取っているということで、そのノート自体も地域の記憶を記したきわめて貴重な資料となっていると感じました(1)。個人的にはこのノート自体が研究対象になるのではないかとさえ思うほど感動したのですが、その一方で、この手書きのノートは必ずしも誰でも意味が読み取れるというものではなく、また映像データそのものとの明確な紐付けがされているわけではないとのことで、坂本さんたちのこの活動が地域文化のアーカイブとして今後も長く機能していくためには、このノートをもとにした目録の整備やデジタル化が必要であるように思われました。あるいは、DVDというメディアそのものも、それほど長期間にわたって映像コンテンツを保管できるわけではないため、将来的にはデータ管理のあり方を再検討する必要もあるのだろうと感じました。

 

一方の山形ドキュメンタリーフィルムライブラリーは、山形国際ドキュメンタリー映画祭への応募作の保存を主眼としているため、厳密な意味では「コミュニティ・アーカイブ」には該当しないのかもしれないのですが、20,000点近くのビデオやフィルムはそれ自体が映画祭の歴史を物語る貴重な資料でした。また、作品の保存・収集だけでなく、市民や愛好者がそれらの作品を鑑賞できる試写室やビデオブースも整備されており、非常に魅力的でした。

特筆すべきは、1989年に開催された第1回映画祭のときから応募作品のほとんどが保存されており、視聴可能な状態にあるということです。というのは、ライブラリーそのものは、現在の所在地となっている山形ビッグウイングが建設された1994年に開館しているので、必ずしも最初から収集・保存・活用の体制が整っていたわけではないのです。実際、ライブラリーが開館されるまで、作品は市役所で保管されていたそうなのですが、それでも第1回募集の時点から、映画祭側での作品の保管・二次利用の許諾を求めていたとのことです。事務局長の畑あゆみさんによれば、世界的に見ても、映画祭が作品を保管するという事例はそれほど多くはないとのことで、それを思えば一層、当時の映画祭関係者の先見の明に驚かされます。

ただし、同ライブラリーには他にもさまざまな経緯で保管されるに至っているフィルムや資料(たとえば市民から寄贈されたものなど)があり、そこには貴重な映像と思しきものもありながら、権利関係が不明なものもあり、活用できないものもあるとのことでした。こうした権利問題は、同ライブラリーに限らず、あちこちのアーカイブ関連機関で耳にする話なので、今後のアーカイブ研究で法務関係の議論との接続も図られる必要があるのだということを再認識しました。

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それから、今回の視察を通じてあらためて考えたことは、コミュニティ・アーカイブの自律性という問題です。たとえば、アンドリュー・フリンという研究者は「特定のコミュニティや特定のテーマに関連するコレクションを作成・収集、処理、キュレーション、保存、利用可能にする(しばしば)草の根的な活動」とコミュニティ・アーカイブを定義しています(2)。この「草の根的な活動」が意味するところは、市民が自分たちの暮らす地域について学び、その記憶や知識を共有し、自らの生活を自分たちの力でより良いものにするという「自己決定」にコミュニティ・アーカイブは関わるのだ、というものです。それゆえ、公的機関のバックアップを受けたり、それらと連携してアーカイブの整備を進めれば良い、という単純な話ではない、ということを研究者たちは指摘しているわけです。とはいえ、個々の組織や団体だけでは解決できない課題や認知されていない問題をクリアしていくためには、そうした組織間のネットワークを構築していくことや、公的機関との理想的なパートナーシップの形を模索していくことも重要になるのだろうと、この原稿を書きながらあらためて考えているところです。



(1) 「テレシネ」とは、フィルム映像をビデオ映像に変換することで、特にここでは映写機でスクリーンに投影した映像をビデオカメラで撮影することでDVDに記録する方式を採用している。

(2) Andrew Flinn, "Community Histories, Community Archives: Some Opportunities and Challenges", Journal of the Society of Archivists, 28 (2), 2007, pp.151-176.


青山太郎(映像学者、デザイナー)
1987年、愛知県生まれ。博士(学術)。今日のメディア環境における映像制作の美学と倫理学のあり方を探求している。また、デザイナーとして国内外で制作・展示活動を手がける。 現在、名古屋文理大学准教授。著書に『中動態の映像学ー東日本大震災を記録する作家たちの生成変化』(堀之内出版、2022年)

 


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