コラム 2023年03月31日更新

聞いてみた:なんじょうデジタルアーカイブ(なんデジ)/沖縄県南城市


沖縄本島の南部に位置する沖縄県南城市。20231月末、同市が行う「なんじょうデジタルアーカイブ」(以下なんデジ)という取り組みを取材するため、南城市役所にお邪魔し、デジタルアーカイブ専門員の田村卓也さん、担当職員の中村圭吾さんにお話を伺いました。

_R030572.JPG

●「なんデジ」とは

2006年に佐敷町、知念村、玉城村、大里村の4町村が合併して誕生した南城市には、世界文化遺産群の一つ「斎場御嶽(せーふぁうたき)」をはじめとした有形・無形の文化財が数多くあります。しかし、市内には博物館施設がないということもあり、貴重な地域の財産を観光や教育にうまく生かしきれていないのではという課題があったそうです。

そこで、各町村が保管していたさまざまな資料を整理し、地域の財産として公開していくデジタルアーカイブ事業の構想が2017年に立ち上がり、20213月にウェブサイトが公開されました。貴重な資料を整理・保存した上で、未来に継承し、多くの人びとに活用されることを目的としています。

「なんじょうデジタルアーカイブ」(なんデジ) https://nanjo-archive.jp/

南城市が所蔵する資料は、主に合併前の市町村で職員が撮影したものと、地域住民の方々から集めたものが中心となっています。うち大部分を占めるのは写真資料で、プリントやフィルムの状態で保管されていたものをデジタル化し、公開しています。現在デジタル化が終わった資料は78万点あり、うち約1万点を公開しているとのこと。未公開の資料の中には、いつどこで撮影されたか等の情報(メタデータ)が不明のものも多くあり、聞き取りをしたり、文献を調べたりして情報を付加していく作業が続いているそうです。

 

 

●資料の公開基準

なんデジのウェブサイト上には、「資料公開の考え方」が掲載されています。例えば、勤務中の公務員を写した写真は原則すべて公開、成人式や学校行事など撮影されることが前提となっているイベントの写真は積極的に公開、等々。市所蔵の資料は市民の財産であるという考えから、原則「全点公開」を基本方針としていますが、内容によっては公開に適さないと判断しうるケースもあり、そのあたりの基準がわかりやすく書かれています。特に人物が写り込んでいる資料は公開に多かれ少なかれリスクを伴いますが、プライバシーの懸念がある写真でも、古くなればなるほどプライバシー性は低下すると考え、南城市が誕生した2006年以前の写真は積極的に公開しているとのこと。中でも1972年の本土復帰以前の写真はそれだけで歴史的価値や稀少性が高いと判断し、公開を推進しています。

このように公開基準をきちんと明言することで、判断の際の指針になるという実務的な利点に加えて、他の職員や地域住民とも方針を共有でき、理解者が増えることも大きなメリットになりそうだと感じました。

なんデジでは原則的に出し控えずに資料を公開し、もし何か指摘を受けた場合には、検討した上で非公開にするという方法をとっています。これによって、せっかく手元に良い写真があるのに公開できずに死蔵してしまう......という事態をなくし、多くの資料を継続的に公開できているそうです。

さらに、「生きているアーカイブ」であるための工夫として、たとえ写真一枚であっても毎週資料を公開するというルールを設け、併せてSNSも更新しています。継続的な更新によってアーカイブにアクセスする人が増え、市民から資料に関する情報を寄せてもらうことも増えてきているそう。人の目に触れることでアーカイブが育つ、という好循環が生まれています。

 

 

●資料の収集と活用

南城市内には字(あざ)が70以上あり、市ではデジタルアーカイブ事業を始める以前から、各地域で「古写真トークイベント」を開催してきました。公民館に眠っていた写真や、個人が持っている写真を集め、スクリーンに映しながら当時の思い出話などを語り合う場です。イベントで語られたさまざまな情報やエピソードは、写真とともになんデジに公開されていきます。

県や公文書館のアーカイブはあくまで公的機関が記録したものですが、地域の人々が自分たちで歴史や文化を記録してきたものは、その地域の中に入らなくては撮れないもの。だからこそ「地域から資料を集めることは、地域デジタルアーカイブが担うべき大きな核となる活動の一つ」と田村さんは言います。古写真トークイベントは、そうした地域固有の資料を収集する貴重な機会となっているようです。

また、預かった写真はデジタル化して市でデータを保管しつつ、住民の方にもデータをお渡ししています。そうすることで、住民の方々が自分たちでイベントをしたり、地域の出版物に使用したりしているそうです。

アーカイブ資料の活用例として、「南城アーカイブツーリズム」という取り組みも行っています。もともとは古写真を見ながら地域を歩く観光コンテンツとして企画し、インバウンドを想定して英語と中国語のウェブサイトも用意していました。しかし、リリースと同時にコロナ禍となり、方針を転換。地図上にマッピングされたスポットに行き、現地で昔の写真や音声ガイドが楽しめるという本来の主旨に加えて、現在はウェブ上でも楽しめるコンテンツとして展開しています。

 

 

●資料の二次利用

資料の二次利用については、クリエイティブコモンズのライセンス「CCBY」にもとづき、誰でも自由に利用が可能となっています。CCBYとは、出典元を表記することで、資料の複製や再配布、改変が認められる仕組みです。商用利用可、かつ申請手続き等も不要で、各々がウェブサイトから資料をダウンロードして利用することができます(とはいえ、どのような用途で使用したかを報告してもらえるとなお嬉しいとのこと)。この仕組みであれば、利用する側のハードルも低く、かつ運営側の負担も少なく済みそうです。




デジタルアーカイブは期間限定で取り組むものではなく、半永久的に資料を残していく前提で作り上げていくものであるから、なるべくコストを抑えてシンプルな仕組みにし、持続性の高いアーカイブを目指す。そんな南城市の姿勢が、資料の公開や活用などそれぞれの場面において、一貫して強く感じられます。

地域住民を巻き込みながら長期的にアーカイブを育てていくーー今回の取材によって、地域にひらかれた情報のプラットフォームとしてのコミュニティ・アーカイブ像が見えてきました。将来的には学校教育での資料活用にも本腰を入れたいとのこと。より地域に根ざしたアーカイブとして発展していく「なんデジ」に、これからも注目していきたいと思います。




佐藤友理(せんだいメディアテーク企画・活動支援室)


x facebook Youtube