コラム 2023年09月07日更新

リサーチレポート:神戸映画資料館


2022年11につづき、2023716日、日本映像学会 映像アーカイブ研究会の方々らと一緒に兵庫県神戸市の「神戸映画資料館」にて、館長の安井喜雄さん、田中範子さんにお話をうかがいました。

今回のレポートは、そこでご一緒した関西大学大学院文学研究科の藤田彩菜さんに書いていただきました。藤田さんは、学部の卒業論文でミニシアターを取り上げ、大学院に進んだ現在は自主上映活動やコミュニティシネマに関心を寄せて研究しています。

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神戸映画資料館は、特定非営利活動法人プラネット映画保存ネットワークによって運営される施設で、映画フィルムや雑誌、ポスター、機材などを収集・保存・公開しています。収蔵するフィルムは20,000本を超え、国内にある民営の機関としては最大規模のフィルムアーカイブと言われています。

映画の上映活動や映画資料の収集は、現館長の安井さんと映画好きの仲間が1974年に大阪で「プラネット映画資料図書館」を設立したことに始まりました。その後、阪神・淡路大震災で甚大な被害を受けた神戸市の新長田地区にて、20073月に「神戸映画資料館」を開館します。最初こそ市の助成事業でしたが、20094月からは安井さんが代表を務める「神戸プラネット」が独立採算事業として運営するようになりました。2014年にはフィルムアーカイブ活動の充実を目指し「一般社団法人神戸映画保存ネットワーク」を設立しました。

アーカイブ活動の一方で、2009年より映画祭(「神戸ドキュメンタリー映画祭」、2017年より「神戸発掘映画祭」に改称)も立ち上げています。この映画祭は〈地域の記憶・記録〉を掘り起こして発信・共有する地域に根ざした事業で、ほかにも「ホームムービーの日」という地域や家庭に眠っているフィルムを持ち寄って行う上映会なども実施しています。

資料の多くは、映画コレクターやその家族から寄贈されることが多いそうです。過去には16mmフィルムを取り扱っていた会社の廃業に際して引き受けたこともあるそう。また、パンフレットや雑誌など、ノンフィルム資料も数多くありました。

また、主には収蔵しているフィルムを用いて週末を中心に自主上映を実施しています(時折、新作のドキュメンタリー映画を上映することもある)。膨大な数にのぼる収蔵資料のリストは公開していませんが、館の賛助会員となっている研究者などの問い合わせに個々に対応しているそうです。賛助会員は現在100名ほどで、神戸映画資料館の活動を応援している人に加え、最近は海外の人もふくめ、資料の閲覧を求めて賛助会員となる例も増えています。

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ところで、資料館と同じ建物にある保管庫を見せていただきましたが、棚中が資料で埋め尽くされていました。田中さんは、これ以上資料が増えると本当に収蔵する場所がないと言います。その整理においても課題が山積しています。かつて文化庁「美術館・歴史博物館重点分野支援事業」により、フィルムには通し番号をつけることはできたそうですが、ジャンルごとの分類などはできておらず、そもそも内容を確認できていないものも多いとのこと。フィルムの取り扱いには専門的な知識が必要ですが、なかなか確認作業が進まず、その間にますます劣化してしまう恐れもあります。

さらには、所蔵資料のデータベース化は優先順位をつけて実施するほかない状況だと続けます。たとえば、研究者が自分の研究のために必要な資料を探しながら整理してもらうのが最も現実的で好ましい方法なのではないかともお話しされていました。加えて、情報整理における課題として、いかに「横断検索」を可能にするか検討する必要もあるとのこと。

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それに比べると、チラシやパンフレットなど印刷物の整理は比較的専門知識を要せず、一般の人でもできることから、現在は定期的にボランティアを募って一緒に整理活動を進めているそうです。ちなみに、資料館の運営(受付など)もボランティアの力を借りているとのこと。

フィルムなどの経年劣化のこともありますが、資料の整理や保存にまつわる費用や場所・環境整備の問題など生々しい事情も伺い、あらためて一刻を争う状況にあると感じた視察でした。

 

藤田彩菜(関西大学大学院文学研究科映像文化研究 博士前期課程)


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