報告 2023年03月29日更新

第17回映像サロンレポート


3月19日(日)に、第17回映像サロン「表現の豊かで幸福なあり方を考える~劇団・烏丸ストロークロックの取り組みから~」を開催しました。

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今回の発表者は、南三陸町で震災前からドキュメンタリー映画を作り続けてきた当会代表でもある我妻和樹さん。はじめに、我妻さんから劇団・烏丸ストロークロックの作風や特徴について紹介された後、当劇団にとって一番新しい作品となる2022年9月の豊岡演劇祭で上演された芝居神楽「但東(たんとう)さいさい」のダイジェスト映像(足立原円香(あだちはら・まどか)さん制作)が上映され、その後この「但東さいさい」が生まれていく過程である兵庫県豊岡市但東地域の子どもたちとのワークショップを記録した『烏丸ストロークロックと子どもたち』が上映されました。

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我妻さんは、烏丸さんの但東地域での取り組みを見ていく中で、背景や価値観の異なる者同士がアートをきっかけに交流し、お互いに変化し影響を与え合いながら生まれていく創作のあり方に大きな感銘を受けたそうです。

烏丸さんは事前のリサーチを重ね、但東地域の人たちの「過疎化の進む自分たちの地域を何とかしたい」という声を受け止めながら、その土地に残る民話や農村歌舞伎舞台等の文化資源を活用し、その土地に生きる子どもたちとともに一から作品を創り上げるというプロセスを大事にしていったようです。そのような、外から地域に入るアーティストが自分たちの成し遂げたい表現を一方的に推し進めるのではなく、目の前の現実や関わる人との対話を重ねながら生まれていく創作のあり方は、ドキュメンタリー制作者にとっても学ぶべきものが多くありました。

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ただし、今回上映した作品の中では、そうしたワークショップに至る経緯や背景の描き方が不十分なばかりに、我妻さんが伝えたいことが伝わりにくいどころか、かえって観る人との間に大きなズレを生み出してしまう危険性もあることが分かりました。

一方で、作品の中で描かれている表現者の葛藤に共感するといった声や、子どもたちの居場所を作ることがいかに大切か、そこで同じ時間を過ごしたことが、何年か経って意味を持つものになる可能性もあるはずといった声もありました。実際、この「但東さいさい」は1回で終わりではなく、地元の繋がりの中で受け継がれていくものを目指して活動中のようですが、そうした外部からの活動の根の降ろし方にも参加者の関心が集まりました。

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我妻さんは、「作り手がやりたいことのために人を利用したり、人を不幸にしたりするのではなく、作り手自身が現実と対話しながら変化し、その過程で表現が関わる人との間でより良く生きるために活用されることが、豊かで幸福な形なのでは」と語ります。ディスカッションは1時間45分に上りましたが、作品へのアドバイスも含め、テーマについてじっくりと掘り下げて考える時間となりました。

以上、長文となりましたが、我妻さん、お疲れさまでした!ご参加のみなさま、ありがとうございました!次回の映像サロンは未定ですが、引き続きよろしくお願いいたします!


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