コラム 2024年12月05日更新

会員寄稿文「わたしにとってのドキュメンタリー」Vol.9 佐藤そのみ


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※この企画は、みやぎシネマクラドルの活動をより理解していただくことを目的に、「わたしにとってのドキュメンタリー」をテーマに会員が自由に文章を書く企画です。

 

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故郷・宮城県石巻市大川地区を舞台に2019年に自主制作したフィクション映画『春をかさねて』とドキュメンタリー映画『あなたの瞳に話せたら』が、今年の127日(土)より、東京のシアター・イメージフォーラムを皮切りに全国順次公開となります。初劇場公開・初自主配給で色々と不安ですが、同時に楽しみです。

 

私は12歳の頃から、大好きな地元・大川を舞台に映画を作ることを夢見ていました。その2年後、震災によって私が撮りたかった"大川"は跡形もなく消えてしまいました。私の2歳下の妹も当時通っていた「石巻市立大川小学校」という場所で他の児童や先生方と共に津波の犠牲になり、とても映画どころではありませんでした。

 

それでも心のどこかに"私は絶対に大川で映画を撮れるんだ"という根拠のない自信が根深く残っており、震災から4年後、私は映画学科のある関東の大学に進学していました。映画で"故郷"や"震災"と向き合うことは容易ではありませんでしたが、負けず嫌いな性格が幸いし、在学中になんとか形にできたのがこの2作です。『春をかさねて』は、被災地の14歳の少女の葛藤を描いた、完全なるフィクションです。地元の方々を中心にキャスティングし、20193月の約10日間で撮影しました。本当はこの作品で制作を終える予定でしたが、卒業制作として30分の短編を作ることが必要で、"それなら『春をかさねて』と相補的な、双子のような映画を作ろう"と着手したのが『あなたの瞳に話せたら』です。ドキュメンタリーとはいっても、「被写体にそのままカメラを向けたくない、ありのままを映し出したくない」という私の強い意志がありました。震災後、取材される側として撮影者に自分自身を受け渡す際の、精神的な負担を私自身がよく感じていたからです。そのため、映画の語りに "手紙"を用いたり、明確なカット割の中で被写体に芝居をしてもらったりと、フィクショナルな要素を取り入れた作品になっています。『春〜』と続けて観ることで、フィクションとドキュメンタリーが溶け合い、大川という場所をより身近に感じられるのではないかと思っています。

 

今はフィクション映画の制作に注力していますが、大学時代にドキュメンタリーを撮った際の被写体や自身との向き合い方を忘れないでいたいです。本当に沢山の失敗をして沢山の涙を流しましたが、今後も困難に臆せずぶつかって、強くなり続けていきます。

 

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佐藤そのみ(さとう・そのみ)

 

1996年宮城県石巻市出身。日本大学芸術学部映画学科休学〜在学中の2019年、フィクション映画『春をかさねて』、ドキュメンタリー映画『あなたの瞳に話せたら』を自主制作。卒業後、制作会社や映画配給会社に勤務する傍ら、2作品の自主上映を全国各地で行った。2024年、次代を担う若手映画作家の発掘と育成を目的とした「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の製作実地研修を受ける監督の一人として選出される。


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