コラム 2025年01月23日更新

会員寄稿文「わたしにとってのドキュメンタリー」Vol.12 宍戸大裕


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※この企画は、みやぎシネマクラドルの活動をより理解していただくことを目的に、「わたしにとってのドキュメンタリー」をテーマに会員が自由に文章を書く企画です。

 

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映画を通して、声の小さな者たちの声を大きくしたい、それが僕の映画づくりの原点です。

 

はじまりは東京にある自然豊かな山、高尾山の開発計画を知った大学生活6年目の時です。子どもの頃から動物の生息域や自然環境を守る活動をしたいと思っていたところ、2007年に「圏央道高尾山トンネル開発計画」が進んでいることを友人を通して知りました。

 

工事に反対する自然保護団体や地元の方々による長年の反対運動を知り、この問題を広く世間に伝え、工事を止めるにはどうしたらいいかと考えるようになりました。それまで、環境を考える勉強会やセミナーを開いたりはしてきましたが、どんなに準備をしてきてもたとえば開催日に都合がつかなければ参加できない人はいるし、天気が悪ければ参加者も少ない。準備が実らないという悔しい経験を何度かしてきました。

 

そんな時に思いついたのが、ドキュメンタリー映画という方法です。映画ならDVDさえあればいつでもどこでも誰でも観られる。社会にある問題を伝える上で有効な方法じゃないか、と思いついたのです。それは文字通り、ただの「思いつき」でした。

 

その頃、偶然知人を通して紹介してもらった映像グループ「風の集い」に参加するようになりました。早稲田で月に一度、映画監督やカメラマンが集まり持ち寄った映像を観ながら話し合う場で、プロ・アマといった垣根はなく、様々な問題意識を元にドキュメンタリー作品を制作・発表している人たちが集っていました。それは刺激的で、映像を作る際の倫理観や社会を見る目を養い、ドキュメンタリー映画の作り方をいちから学びました。結局、2年間通った「風の集い」で、『高尾山 二十四年目の記憶』という映画を作り上げたのが、僕にとって最初の作品になったのです。

 

紆余曲折を経ながらこれまで映画を撮り続けてきましたが、原点は変わりません。この世界で声を上げられずにいる存在や、小さくさせられている存在の声を大きくしたい。人間も他の生きものもひとしく、深呼吸して生きられる社会にしたいという思いです。僕にとって映画はそのための闘う道具であり、薬であるのかもしれません。この世界を自分が生まれてきた時よりもすみよい世にして去っていきたい。それが僕がドキュメンタリーをつくる原点です。

 

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宍戸大裕(ししど・だいすけ)

 

映像作家。学生時代、高尾山への開発とそれに反対する地元の人びとを描いたドキュメンタリー映画をつくり映像制作を始める。これまでの監督作に『犬と猫と人間と2 動物たちの大震災』(2013年公開)、『風は生きよという』(16年公開)、『道草』(19年公開)がある。最新作『杳かなる』が2025年28日より新宿K's cinemaにて公開予定。クマと人が棲み分けながら生きられる世界を模索する映画制作のため、東京・岩手の2拠点に暮らす。


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