2014年12月12日更新

記録:レコーダ会議(勉強会編)「仙台市博物館学芸室長・樋口智之さんに聞く」後編


10月29日にせんだいメディアテーク7階スタジオの台所にてレコーダ会議の勉強会編として、仙台市博物館学芸室長・樋口智之さんをお迎えしてお話をいただきました。

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----質疑つづき

レコーダ

博物館にはどういう専門ジャンルの方がいるんですか?

樋口

絵画、彫刻仏像、工芸品と言って漆で出来た物とか陶磁器とか、陣羽織などの染織品を扱う人、古文書などを扱う歴史担当の人がいます。前は考古資料、出土遺物を専門とする学芸員もいたんですけど今は人事異動の関係で空白になっています。

レコーダ

収蔵品を置く場所に困ったりしないのですか?

樋口

とても困っています。1万何千点から始まって、その後増え、今の建物ができたのが昭和61年、今や9万点です。新築時に想定していた量も超えてしまって......今ものがあふれている状態で......置き場に困っています。なので、寄贈されるものについても制限せざるを得ません。以前はもう少し間口を広くして、できるだけ収集の対象にしようと思ったものの、置き場がなくなってきたので、活用できそうなものに絞っています。

レコーダ

もうどのくらい埋まっているんですか?

樋口

みなさんのお宅はどうです、モノ溢れてませんか? そういうのと似たような感じじゃないかな(笑)

レコーダ

手放すことはないのですか?

海外の美術館や博物館では、持っているものは売ってその資金で別なものを買う例もありますが。

樋口

いただいたものは手放せません。

作品の売却は、おそらく日本の公立の美術館・博物館はしてないんじゃないですかね。

レコーダ

でも、もう収蔵庫はいっぱいなんですよね?

樋口

だから苦労してるんです(笑)

収蔵庫が6部屋あるんですが、ほんとに溢れてる状態ですね。

レコーダ

ちなみに今日集まっている人の中で、自分のうちで博物館に何か寄贈したことがあるとか、おじいちゃんの何かが収蔵されているという人はいませんか?

レコーダ

知っている人で政宗の手紙を持っているという人がいて売りたがっていました。人を通じて仙台市博物館に聞いてもらったら偽物だったっていう。写しだったんでしょうね。そういう話は聞いたことがあります。

樋口

自分の持っているものをお持ちになって、どういうものかってお聞きになる方はいらっしゃいます。物の評価というのは難しいんですけど。公立の博物館では、金額的な評価は一切しません。鑑定してくださいってお持ちになるんですけど、金額的なことは一切お答えできませんとお伝えします。

レコーダ

普段、全体の仕事の時間配分ってどうなっていますか?

樋口

年にもよるんですけど、私はこの秋の展覧会を担当したので、かなりの時間をそれに取られています。展覧会を持たない年はもっと別のところに時間を使います。一番の悩みは、調査研究する時間がなかなか取れないことです。展示活動やその他に関わる業務、事務的作業も含めて膨大にあるので。生涯学習、学校との連携など社会的な役割も多岐にわたるようになりました。また多分パソコンやインターネットが発達したことも大きいと思うのですが、締切が早かったりデジタル的な仕事も増えてきているので、その辺が大変です。

レコーダ

研究だけをどこかの大学と共同でおこなうことはあるんですか?

樋口

そこまで余裕がないです。部分的には個々人でやることもありますが難しい。

レコーダ

宮城県立の東北歴史博物館との連携はありますか?

樋口

今のところそんなに目立った連携はしていません。個別には協力し合っていますが。

レコーダ

寄贈されるときに、これは市じゃなくて県だとか分別されることはありますか?

樋口

あるかもしれないですが、あまり話題にのぼったことはないです。仙台市博物館は仙台の歴史が中心の博物館ですが、東北歴史博物館は名前の通り東北一帯が対象になっているので、収集する範囲が広いのではないでしょうか。

レコーダ

さっきの研究の話に戻るんですが、たとえば、小学生の自由研究くらいの可愛らしい相談は良いとして、もっと本格的に、個人研究家から教えてほしいというような相談も受けるのですか?

樋口

あります。大学で研究している人から、在野で研究をしている人もいますし、一般の方々が自分の家系を調べたいという相談も多いですよ。

すべてに答える、我々が調べて差し上げるというのは無理なので、調べ方をお伝えするとか。「これ調べたいんだけど、教えて」と言われてすぐにわかるものではないので。「こちらの本をご覧になってはいかがですか?」とお伝えします。小学生には、調べ方の勉強という意味においても、本の探し方を教えてあげるととか。

レコーダ

今回のプロジェクトで、樋口さんに聞いたほうが良さそうなアイデアが出てきた時に、訪ねていって教えていただいたりすることは可能ですか?

樋口

はい。分かる場合と分からない場合がありますが。分かる場合ならツボ・・・膨大な情報を取捨選択する近道みたいな、そういうのは研究の経験を積んだ人はわかるので、この人の本をまず先に読むと色んな参考文献があって広がっていく、とか分かりますから。早道はお伝えすることができると思います。

レコーダ

企画展をやるとき、どういう基準で決めるんですか?

樋口

個人個人の学芸員の調査研究というのがあって、企画を出します。「こういう展覧会がやりたい」って。もうひとつは、歴史的な節目の年に合わせた展覧会があります。この間の「慶長遣欧使節」も石巻を出てから400年目だから展覧会を開催しようと。

レコーダ

時期を割り振って企画しているのですか?

樋口

春と秋が一番良い時期。お客さんも動きやすい。だから春と秋に大きな展覧会をするということはあります。それと別に、資料の所有者の条件などを加味しながら決めていきます。

私のように古美術を扱っている学芸員からすると、春と秋は作品をお借りしやすいです。何故なら温度湿度が安定しているから。夏の暑い日や冬の低湿度低温だと古美術品は動かしにくいんですよね。

レコーダ

冒頭に話していた出品をお願いするときのコツはありますか? 口説き文句とか殺し文句とか。

樋口

あったら知りたいです。断られることもあります。普通、出品をお願いする時は、電話を差し上げて、こういう企画を考えていてご挨拶かたがた趣旨の説明に伺いたいんですとお話しします。でも、電話で「一切貸し出ししていません」とお断りされることもある。話を聞いていただけそうな時は、行ってお話をして、「当館はこういうところで、こういう作品をこういう位置づけで展示させていただきたいのです」と説明します。その後に、どういう条件でお借りできるのか、たとえば、お寺の物だと秋の一般公開時期があって、その時期に重なったら貸し出せません、となる場合もあります。古美術品の場合は一年間の内で展示できる日数が限られるわけです、色があせたりするので。「貸し出すのはいいけれど、うちでも展示するから展覧会の半期だけの展示にして」と条件が付くことも多々あります。今回の「樹木礼賛」展もそういう条件が付いているので半期でだいぶ展示替えをしています。口説き文句というのはありませんが、熱意は必要です。粘り強さや、信頼を得るという意味においていかに相手の懐に飛び込めるかというところもあるかもしれません。最初断られても、しばらくすると状況が変わっていることもあります。

レコーダ

逆の立場、貸し出すこともあるわけですよね。そのときは博物館のスケジュールと合わせて貸し出せるかどうかということになるんですか?

樋口

そうです。そして貸出先がどんな施設なのか、この作品を大事に扱ってくれる学芸員さんがいるのか、そういったことも考えます。

レコーダ

信用?

樋口

そうです、簡単なものなら普通に扱えば壊れないですが、微妙な扱いが必要なものもありますので、お互い相談しながらやります。


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