インタビュー 2017年11月30日更新

【OUTのその後・3】<クローゼット座談会>CLOSETが潜入!OUT IN JAPAN part3


カミングアウト/クローゼット【OUTのその後】
このシリーズは、2016年3月に実施された「OUT IN JAPAN東北プロジェクト」に関わった人たちにインタビューを行い、ひとりひとり多様である「カミングアウト/クローゼット」のありかたについて見つめ考えるものです。詳細はこちら

座談会メンバー
namihei:1976年生まれ。宮城県出身・在住。FtXでパンセクシュアルでポリアモリーという呪文のようなセクシュアリティ。
キャシー:1977年生まれ。宮城県出身・在住。セクシュアリティはMtX。ノンケ男子ばかりを好きになる永遠の片思い中。
MEME:1980年生まれ。宮城県出身・在住。恋愛感情のないFtXバイセクシュアル。

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写真について思うこと、いろいろ

MEME:そもそも、写真撮られること自体は好きですか?

キャシー:年齢が上がるにつれて撮られたくなくなってるっていうのはあるけど(笑)。

MEME:お肌のコンディション的な?(笑)

キャシー:(笑)まあ別に、こだわらないっていうか。写真を撮られようが撮られまいが別に気にならないし、気にしない。それが形として残るから嫌だっていう感覚はない。自分では写真も撮らないし、誰かが撮ってくれるなら撮ってもらってもいいかな、みたいなかんじ。

MEME:そういえば確かに、日常的に写真撮ったりはしてない印象がある。

キャシー:一切。ケータイにだって写真全然入ってないし。

namihei:でも、カメラを向けられれば別に拒絶はしないんだ。

キャシー:別に。それが公の場に出されて、親戚とかにセクシュアリティのことを知られるっていうんだったらダメだけど。

MEME:要するに、アウティングに繋がるようなかたちで出されるのは困るけど、写真そのものは好きでも嫌いでもない、みたいな。

namihei:なるほど。キャシーはそういう意味で、写真撮られるのは嫌だって言ってるんだ。

MEME:私の場合、写真撮られることそのものが嫌いなんですよね。魂抜かれるからね。

namihei:いや、だからさ(笑)。

MEME:いや、なんだろう、カメラを、レンズを向けられて切り取られることの暴力性に敏感なんだと思う。堅い言い方をすると。

キャシー:その写真が何かに使われるとか、そういうこと?

MEME:いや、使われなくても。人の写真を撮って手元に置きたいっていうのが、言っちゃえば相手を手元に置きたいっていう願望のように感じる。たとえばその極端な例が、ストーカーしてる相手を盗撮して家の中にその写真を貼るとか、そういうのだと思うんだけど。写真に撮って手元に置くことで、その相手の一部を取るっていうか。それは、占有することでもあり、支配征服することでもあり。シャッターを切られることで、なんか自分が奪われるかんじがする。だから、私の中では痴漢に遭うのに近いかんじかな。

namihei:その感覚は分かんないなあ。

キャシー:そこまで写真からは感じたことない。

MEME:勝手に写真撮る人の言い分で「減るもんじゃなし」っていうのがよくあるんだけど、それって痴漢の言い分と一緒じゃん。尻撫でたからって減るもんじゃなしっていう。でも、何であなたの欲望のために私が嫌な思いしないといけないのかって。全然対等じゃないじゃん。私の中で、勝手に尻触られるのと、勝手に写真撮られるのは近い感覚がある。

namihei・キャシー:あー。

MEME:そんなわけで、もともと写真は苦手だったんだけど。今、勝手に撮ったあげく、勝手にネットに上げる。それをまったく罪悪感もなくやる、そういう人がすごい目立つのが気になってて。
セクマイコミュニティも、前はもっと写真にすごいデリケートだったと思うんだよね。撮るにしても、「撮っていい?」とか、「これネットに上げていい?」とか、聞くカルチャーがあった。そういう気遣いはあったと思うんだけど。今や、セクマイ系のイベントでも、バンバン写真を撮ってて。自分たちだけを撮ってるつもりでも、人がいっぱいいるからどうしても背後に写り込むわけじゃん。それも構わずバンバンネットに上げたりとか。マスメディアでも、イベントに来てた人の写真を撮って、それを本人の同意もちゃんと取らないで誌面に載せちゃってたり(参考☞『AERA 2017年6月12日号』でおわび)。そういう行為の暴力性っていうのが、アウティングやリベンジポルノとかで昔より問題大きくなってるはずなのに、感じない人が増えてるのかなと。別にセクマイじゃなくても、そこらへん歩いてる人だって、今ここにいることを知られたら困るかもしれないわけじゃん。撮られて晒されることで身の破滅に繋がる人もいて。そういうことまで考えて晒してますか?って。
一見オープンにしてるセクマイの人でも、実は出るメディア選んでいたりってこともあるしね。たとえば新聞の取材だったら基本OKだけど、地元紙だけはNGとか。地元紙だと親戚とか皆見てるから。オープンな人でも、そうやってコントロールしてたりするんだよね。だから、オープンにしてるからって、どこにでも載せていいわけじゃない。

namihei:だから今、追い付いてないんだよ。カメラが進歩して、皆がどんどん撮ってネットに上げられるようになって。そういうのはルールがあるんですよっていうのが浸透しないまま、技術がどんどん進んじゃって。

MEME:やっぱり、スマホの普及で爆発的にそういう状況になったよね。みんなが高性能カメラを持ってるんだもんね。
それで、軽々しく写真撮るようになって、断るとケチとか、「俺が悪用するとでも思ってんのか」みたく言う人もいるけど。悪用しないとしても、相手が嫌がってるんだったら、ムリヤリ撮ったらダメじゃん。断っていいし、断られたら素直に引くべきだし。決定権は撮られる側にあるはずだよね。そういうのを、もっとちゃんと皆が認識しないとダメなんじゃないかって、すごい思う。

namihei:嫌だって言われたら、撮っちゃダメだよね。嫌な理由なんか関係ない。理由云々で撮る撮らないじゃないじゃん。嫌だって言ってんだからさ。何がそんなに難しい話かなって、いつも思うんだよね。

MEME:私やキャシーはさ、セクマイ関係のイベントに出演するとかで人前に出るときは、ドラァグクイーンの格好で素顔を隠して自衛してるわけだけど。namiheiさんは、「撮られたくない側が自衛を強いられるのはおかしい」っていうスタンスを貫いてるよね。

namihei:いやだって、おかしいでしょ。嫌じゃん。何でこっちが。事前の話し合いで、「撮らないでくださいね」って言って、「はい分かりました撮りません」って約束して。それで約束を破る方がおかしいよね。

MEME:それもやっぱり、痴漢の話と一緒だと思うんだよね。痴漢対策もさ、被害者側に自衛を求めるような広告が多いわけじゃん。

namihei:「夜道を歩くな」とかね。

MEME:でも、それって本当はおかしいよね。やる方が悪いわけじゃん。被害者はまったく悪くないのに。

namihei:だから私は、一切仮装しません!

MEME:でもなかなか、私なんかはそこまで思い切れなくて。結局、撮って晒す奴はいるだろうなっていうのがあるから。だから仮装してる。

namihei:確かに、私も実際やられたことあるからね。

MEME:でしょ?実際そういうのあるから。だから、自分の身を守る手段は取りたいかなって。

キャシー:あとは今、発信する文化じゃないけど、ご飯食べに行っただけで全部写真撮って報告、みたいなのがあるじゃん。なんでその人のご飯まで全世界に向けて発信しなきゃいけないのか、いまいちよく分からない。

MEME:せっかくの料理なんだから、写真撮ってるヒマがあったらさっさと食べたいよね。

キャシー:一番美味しいときを逃してるよね。

namihei:だから要するに、ふたりは楽しめないんでしょ、写真を。ご飯の写真にしても、楽しみ方が違うんじゃない?私だったら、忘れちゃうから写真に撮って、クラウドに上げてる。このお店にいつ行ったかとか忘れちゃうから記録として。誰かに見せるわけじゃなく。結果的に見せることにはなっちゃうんだけどね、そういうアプリだから。でも、「いいね」が欲しくて載せてるんじゃなくて、あくまで自分の記録として。

MEME:絵日記みたいなかんじなのかね。

namihei:そうそうそう。ただ、昔はリアルタイムでSNSに上げちゃって、それで待ち伏せされたことがあって。あれは「おっかねー」って思った。だから最近は、時間をずらして上げたり、というのはある。

MEME:「カフェ○○なう」なんてリアルタイムで上げたら、居場所バレバレだもんね。

namihei:そう。私の場合、そんなふうに食べ物の写真とかは撮るの好きだし、記憶を補うツールとして使ってるけど。でも基本的に、鏡を見ても自分だとは思わないし、思えないから、写真を撮られて嬉しいわけないじゃん。街中でガラスを見るのも嫌なわけで。だから集合写真で自分を探すのも大変なの。

MEME:セルフイメージと現実の外見が違う、っていうこと?

namihei:そう。違い過ぎるから。あれーこのときどのへんにいたっけかなー、たぶんこれ自分かなー、みたいな。

キャシー:えー。

namihei:そのときによって着てる服や髪型も違うから、何年か前の写真を見せられても、自分が写ってるかどうかもいまいちよく分からない。だから、それは楽しくないわけ。でも、ラーメンの写真とか撮って溜めとくのは楽しいわけ。

キャシー:なるほどー。

namihei:だから、OUT IN JAPANなんてさ、撮るわけないじゃん。別人の写真と差し替えられててもピンとこないかもしれない。本当にそれくらいのかんじだからね。

キャシー:人によって、それぞれ考え方は違うよね。

namihei:難しいね。

キャシー:でもさ、一般人の間でもそうだけど、メディア側の人たちも、写真に対してかなり軽くなってる気がする。軽いっていうか、アバウトっていうか。

namihei:でもさ、メディアに写真自体はやっぱり必要なんだと思うんだよ。分かりやすさとかさ、あるしさ。たとえば文字の読み書きが苦手な場合、やっぱり絵とか写真で入ってきた方が早いから。だから必要なんだけど、人物に関してはね、ひどいのあるよね。

MEME:ただやっぱり、ある程度はその暴力性を認識しながらもやらざるを得ないことも、報道とかではあると思うんだけどね。東日本大震災のときも避難所で、資料として写真撮っておいた方が良いんじゃないかと思ったんだけど、被災者の人たちにはどうしてもカメラを向けられなかった、っていう知り合いがいて。正直その気持ちは、そうだろうなあとは思ったんだけど、でもやっぱりそういう状況の写真って資料として重要なのも確かじゃん。

namihei:難しいね。

キャシー:確かに。

MEME:だからそういうとき、何か言われたときに、責任を取るところまで腹くくって撮るのがプロなのかなっては思うんだけどね。

namihei:難しいよね。でもやっぱり写真はね、分かりやすいんだよね。分かりやすさの暴力っていうかさ。

キャシー:インパクトもあるし。

MEME:結局OUT IN JAPANも、皆が顔を晒して撮られてますっていう、分かりやすさが強さでもあるわけでしょ。

namihei:そうそう。2016年の11月に多賀城市立図書館でOUT IN JAPANの写真展やったときもさ、写真展のことを知らないでたまたま来た人なんじゃないかと思うんだけど、見に来てた人が「えーこの写真の人たちってみんなそうなのー」って。

キャシー:「しかも東北の人なの?」みたいな。

namihei:図書館の展示だって、あれは写真だからこそ成功したんだと思うし。あれが写真じゃなくて、文字だけだったらどうなってたかも分かんない。来場者の人たちからも、好意的な感想がいっぱい寄せられていて。そんなに反響あるとは思わなくて、なんか「あ、負けたな」って(笑)。「あー、これがやっぱ、カミングアウトの力かな」って思った。

MEME:顔出しの力ね。結局、顔を出すっていう強烈なパワーに、顔を出さないでいかに対抗するかってかんじだよね。
この多賀城市立図書館の写真展も、結局namiheiさんが裏方として関わって、そしてなぜか我々クローゼット3人組がオープニングトークイベントに出演するという(笑)。どんだけ頑張ってんのね、我々ね(笑)(参考☞「多様な性を考える What's LGBT? 企画写真展」「多様な性を考える What's LGBT? 企画トークイベント」)。

キャシー:本当だよね(笑)。仮装までしてね。

namihei:本当どうかと思うわ。でも、OUT IN JAPANに対して心の整理ができないまま、何か知らないけどずーっと関わり続けてるというか。とはいえ、結局1回関わったことじゃん。関わったことだからさ、ちょっとね、このまま終わるのも無責任っていうか。

MEME:真面目だよね(笑)。

namihei:そうでしょ?真面目~(笑)。でもさ、もったいないって思わない?せっかくあんなプロジェクトやって写真撮って、使わない手はないと思うんだけど。今ブームだしさ。今しかないでしょ、使えるのって。悔しいけど、OUT IN JAPANの写真って、本当に良いツールだと思うんだよね。あれは本当に人の目を引くし。「あなたの輝く姿が、つぎの誰かの勇気となる。」っていうのがOUT IN JAPANのキャッチコピーだけど、まさにその通りになってるっていうか。写真展見てくれた人が、「被写体になった人たちを見て勇気をもらいました」って感想くれたりして。で、こっちもやって良かったって思っちゃって。もうなんかさ、悔しいよね!潰しに行ったはずが潰されたみたいなさ(笑)。

MEME:我々がこんなにしつこく絡んでるのって、被写体にならなかったからこそかもね。

namihei:絡むって言わないで(笑)。

(「多様な性を考える What's LGBT? 企画写真展」(多賀城市立図書館))



自分ファーストで行こう!

MEME:ただ、今のこの風潮に乗せられて、無理して表に出てるんじゃないのかなって感じられるような人もいて。だから、無理しなくても、いくらでもやれることはあるよ、みたいなのは思う。

namihei:やっぱりね、手っ取り早いんだよね。顔出すのは。メディアも食いつくし。

MEME:カミングアウトしたからって、その人個人が幸せになれるとは限らないし、むしろそうでないケースも多いはずなのに、なんかそういうのがあまり語られないっていうか。キラキラしてるカミングアウトした人と、したくてもできない可哀想なクローゼットの人、みたいな見え方があるよね。そういうことを言ってるつもりはないって、たとえばOUT IN JAPANの企画運営側は言うんだろうけど、でもそう思われてもしょうがないような売り出し方はしてるよね。CLOSET IN JAPANをやったのも、結局そこにちょっとツッコミを入れたかったわけなんだけど。
もちろん、いろんな事情でカミングアウトしたくないのにせざるを得なくなっちゃうような人もいるわけで。カミングアウトしたからって不利益を被ったり、生き辛くなるような社会はおかしいし、言っても差別されないっていうのが当たり前だとは思うんだけどね。でも大半のセクマイは「せざるを得ない」ってわけでもないでしょ。無理にカミングアウトすることはないと思うんだよね。そもそもノンケだって、プライバシー重視で職場とかでプライベートについて言わなくなってるわけだし。

キャシー:ていうか、言って分かるならいいけど。この3人の場合、セクシュアリティがゴッチャゴチャだから、言ってもたぶん伝わらないよね。

MEME:ていうか、我々のセクシュアリティって自分でもよく分かってないっていうか。でもさ、みんな自分のことを掘り下げたらワケわかんなくなるんじゃないかとは思うけどね。それに、生きてれば変わることだってあるしね。

キャシー:それは思う。好きな人も変わるし。好きなタイプも変わるし。

MEME:まあただ今は、ノンケ的にはLGBT枠でひとくくりってかんじだから、それ以上細かいことを聞こうとは思わないってのもあるかもね。

namihei:私もメリットがあれば、別に言ってもいいけど。何もメリットないもんなーと思うし。私、ズルいよね。本当ズルいと思う。顔出しもしないでいろんな活動やってさ。でもね、みんなもっとズルくなれば良いと思うの(笑)。そうすれば私のズルさが薄まるでしょ!

MEME:最近はLGBTで起業したい!みたいな人もいたりするよね。LGBTブームで、LGBTがひとつの才能みたいに思わされちゃってる人もいるのかなって。

キャシー:ノンケの人でも、LGBTを商売にしようとしてる人が接触してきたりする。

MEME:でもさ、こんなの一時のブームに決まってるじゃん。

キャシー:ていうか、もうすでにブームしぼみかかってるよね。

MEME:だからこそ、日常生活、私生活は大事にしないといけないかなって。生きづらさを減らすためにやってるはずなのに、自分が生きづらくなったら本末転倒だし。

キャシー:かえって生きづらさを増やしてる人もいる気がする。自分の気持ちがどんどんどんどん落ちていって。

MEME:私、自分が一番可愛いので。自分の私生活が犠牲になるようなことはしたくないし。まあね、逆に、「社会全体が良くならなくちゃ自分の幸せもない」みたいに言う人もいるけど。私なんか、「自分が幸せじゃなくて何が社会の幸せだ」と思うから。

namihei:そうだね、それは確かに。

キャシー:それは共感する。

MEME:自分ファーストで行きましょう!



2017年8月10日 Cafe & Bar LYNCH(宮城県宮城郡松島町)にて
写真:namihei
文章まとめ:MEME

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