インタビュー 2018年10月29日更新

アドバイザー・五十嵐太郎さんインタビュー(2)


これなんかきっと読むと人類がそれこそ太古の時代に歩きはじめた頃から、とにかく歩くってことをめぐって文化論をずっとやっているんですよ。

ちば:スローウォークをやりながら、何かしらカタチにしていかなければならないところがあって、じゃあ どう残そうか?っていう話をずっとしていてて。 唯一篠原さんがやっているときに形に残ったものが S-meme だけだったっていう話をされていました。スローウォークを記録に残すみたいなところで、苦労したところとか、どうやってまとめようとか、何を集めようとかっていうのはあったんですか?

五十嵐:S-memeのときは確かね、皆カメラ持っていたから、そのとき気付いて撮影したものと、あれ、座談会だっけ、なんか収録したの。

白鳥:そうですね。

五十嵐:なんかテキストはあるよね。あのとき、たまたま S-meme はS字蛇腹形式で、開くとリニアに繋がっているので、半分偶然だけど、なんとなくアーケード街を歩いているリニアな感じは紙面にそのまま出ていた。本の形してるけど、開くと一筆書きで繋がっているんですよ。スローウォークとは何かみたいな説明と、ちょっとした解説くらいは書いたような気がするけど、あと座談会かなあ、何かそれぞれの気づいたようなことを書いてっていうのが、あのときのまとめじゃないかなあ。ま、だからさっき言った、歩くことと考えることとか、歩くことをテーマにしたベンヤミンとか。
 あと最近『ウォークス』って本 出てるの知ってます?

白鳥:ウォークス?

五十嵐:タイトルは片仮名で『ウォークス』だったと思うんだけど。『災害ユートピア』を出した著者で、とにかく歩くことをめぐる文化史みたいなやつ、結構分厚い本なんですけど。

白鳥・ちば:へー。

五十嵐:レベッカ・ソルニット。これなんか読むと、それこそ人類が太古の時代に歩きはじめた頃から、とにかく歩くってことをめぐって文化論をずっとやっているんですよ。で、たぶん、スローウォークを考えるのにも、『ウォークス』はなんか補助線が引けるっていうか。で、歩くことと考えることの関係みたいなことをいろいろとその本の中で論じているんですね。アリストテレスは歩きながら哲学したとか、歩くことをめぐるほんとに壮大な人類の文化史みたいな...

ちば:この著者は何者なんですか?

五十嵐:この人は、作家でアクティビストって書いているけど、『災害ユートピア』っていう本で、東日本大震災とか起きたあとにも、一時的にユートピア的な、皆が助け合う、普段とちょと違う場が発生するっていう現象が起きたことで、この本が注目されましたね。

ちば:あ、おもしろそう。

白鳥:これはちょと読まないとダメですね。

五十嵐:結構分厚い。400ページかそこらある。

ちば:歩くことと文化?

白鳥:歩くことの精神史、って書いてある。

ちば:はー。

この間アートの公募でおもしろい作品があって、

五十嵐:この間名古屋のアートの公募「アーツ・チャレンジ2019」でおもしろい作品があって。

白鳥:はい

五十嵐:要は街の中を後ろ向きで歩くんですよ。ただそれだけなんだけど、それを撮影する。で、表現としては逆再生するんですよ。そうすると、その人は真っすぐ歩いていて、街の人が後ろ向きに歩いて見えるっていう、結構不思議な映像ができて。加藤立というアーティストの作品です。
 それ、あんまり人が多くない方が良くて、たまーに人が横切ったり車が通ったりすると、「あれ?」って感じになる。あれ、よく考えると、その人が後ろ向きに歩いていて。逆まわししてもちゃんと歩いて見えるように少し訓練したんだろうけど、変なアート作品がありました。

ちば:それ、あれだね、人が少ないときにやるとおもしろい。

五十嵐:映像も最初の1分くらいはその人一人で普通に街を歩いている様子だから、なんなんだろう?って思ってると、ときどき2、3 人が通って逆の交差をしてくから...そうやって考えると、写っている人が仕込みじゃないとしたら、その人たちは一体どうだったんだろう?って。

白鳥・ちば:笑!確かに。

五十嵐:写っている人たち、仕込みなのかなあって思うくらい、その後ろ向きで歩く人を横目で見てなかったので。

ちば:あー。

五十嵐:でも、ホントにやったらさ、街の中でずっと後ろ向きで歩いている人いたら見ちゃうよねえ。だから、これは仕込みなのかなあ、って。

白鳥:全然気にしてない感じですか。

五十嵐:あまりに普通過ぎるから、これ不自然だなってちょっと思ったんだけど。ま、でもこれもすごい簡単でね、ただ後ろ向きに歩くだけだから。

ちば:あ、なんかいろいろ試せると良いね。

白鳥:そうですね。

五十嵐:それは、ひとつ表現として映像でやると笑えるっていうかおもしろい。
 作品名が「後ろ向きに歩く」ってそのままなんですよ。 なんか Youtube か何かにあげているんじゃない?ないかなあ。少しあるね、動画が。この人以外にもやっている人いるんだな。

白鳥:うん、いますね。

ちば:それこそ、あるんじゃない?後ろ歩き協会、みたいなの。

五十嵐:あー、ネタとしてあるんだね。

後、僕が芸術監督をつとめた2013年のあいちトリエンナーレで、丹羽良徳さんっていう作家さんが「デモ行進を逆走する」、っていうアート作品をつくっていて。あの頃だと、原発関係のデモが東京とかであった。デモって大量に人が歩くじゃないですか、そのデモの行進の真ん中を逆方向に向かって歩くっていう作品で。映像としては歩いている丹羽くんの後姿を撮るっていう作品。

ちば:怖っ。

白鳥:へー。後ろ向きの映像自体は、ずっとワンカットですか。

五十嵐:いや。結構何カットか、何パターンもあって。ま、でもちょっとそれなりに尺は長いですけどね。だいたい、最初一人で歩いているシーンが 30 秒くらいあって、それから横切ったり交差する...


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