インタビュー 2018年10月29日更新

アドバイザー・五十嵐太郎さんインタビュー(1)


2018 年9月12日(水)某カフェにて、五十嵐太郎さんにお話を伺いました。
五十嵐さんは、アドバイザーとして「スローウォーク」に関わってくださっています。

それはもう他と比べ物にならないくらいオリジナリティはあるし、おもしろいし、なおかつ実践しているわけですよね、本人が。だから非常にリアリティがある。

ちば:先日篠原さんにお会いして、スローウォークの話をしたときに、「他の人がどう言っていたかは覚えていないけど、五十嵐さんには圧倒的だね」と言われた、と。
どの辺が圧倒的だと感じたのか、もし覚えていたらその辺のことをお聞きしたかったんですが。

五十嵐:それ、S-meme*のスタジオでの話ですよね。受講生はだいたい東北大の建築の学生であとは社会人。彼は建築じゃない大学院生で、偶然紛れ込んだような感じで入ったんだけど。 雑誌をつくるので、ネタだしというか、どういうネタで記事を書けるかというのを 2 度目くらいに受講生と話し合ってた。毎号特集のテーマがあって、1号目はまさにこんな感じのブックカフェじゃないけど、あたらしい形の書店、本屋さんをリサーチしたり、本そのものをテーマにして、2 号目は文化被災、 3 号目はショッピングと震災、で、4号目だったと思うけどその回は現代美術と地域をテーマにした回だった。
 だいたい学生から出される案はあまりおもしろくないんですよね。学生から出る案っていうのは「宮城県美術館で今、こんな展覧会やっているみたいだけどコレどうですか?」って、観てないのに言うのか?っていう感じなんですよ、まずね。観ておもしろかったから書くっていうのだったらわかるんだけど、なんとなくネットで検索してこんな展覧会やっているからっていう、ほとんど実感の伴わないぼんやりした感じのアイデアしかでないんですよ。
 で、篠原さんは最初2つか3つ、違う案を出したんですけど、ま、なんとなくテーマに合わせたネタで、正直、僕覚えてないんです。実はこんなのもあるって言って出たのが確かスローウォークの話で、スローウォークの話をしたら、それはもう他と比べ物にならないくらいオリジナリティはあるし、おもしろいし、なおかつ実践しているわけですよね、本人が。だから非常にリアリティがある。つまり、情報を聞きかじって、自分が観てもいない展覧会の話をするのと違って、そのときはその、自分(篠原さん)が悩んでるっていうところまで聞いてなかったかもしれないけど、やっている話を聞いていると、とにかく実践をしているし、で、まあ単純じゃないですか。馬鹿みたいに単純なルールで、やっぱりそれもすごくて。こうやって複雑ですごいっていうのもあると思うんだけど、いや、なんかホントただゆっくり歩くっていうのをただ街なかでずっとやるっていうのは、たぶんそんなにないと思うんですよ。 演劇とかダンスとか、スタジオでワークショップのエクササイズではあるかなと思うんですね。でもまあ、彼はしかも、パフォーミングアーツも含めて文化アートに関する素養がないわけ、純粋な理系で来ているから。そういう人が自力でこれを編み出したというのに感動したし、驚きますよね。なんかこう似たようなの見聞きしてアレンジしてつくったわけでもなく、そういうのがポンっと出てくるということに衝撃を受けたので。まあ、前段として何の実感も伴わないつまらない案が出ている中で、本人はまさか評価されると思っていないんで、2つ目か3つ目くらいに「や、実は最近 こんなこともやっているんですけどね」ってボソッと話だして、「おもしろそうだからもうちょっと詳しく聞かせて」って言って、そこでもう少し掘り下げて聞いて、じゃあ、「これは(雑誌の)特集の一つの柱になるんじゃない?」って。なんかこう、単発のレビューとか短いものがいっぱい並んでいるんじゃなくて。
 そのとき、志賀理江子の展覧会を柱にするのは決まっていたんですよ。清水建人さんがそのときのゲストで割と関わってくれることになっていたし、ちょうど志賀理江子の展覧会をメディアテークでやっていたし。確か清水さんがレクチャーをして、その後に編集会議としてのミーティングをやった。 志賀理江子の展覧会は2年かけただけあって、凄かった。力作なんで、あれは柱として決めていたんだけど、スローウォークはその場でもう一つの特集の柱になる、ってだいたい決めたというか。 なので、まあ別の回に実際やってみようっていう話になった。

五十嵐さん.jpg
アドバイザーの五十嵐太郎さん

なんか いろんなものに補助線を引けるのがスローウォークなので。

ちば:スローウォークを実際やってみて、五十嵐さんはどうでした?

五十嵐:都市の中で全然違う体験、時間とかを感じる、まあ都市の観かたを変えるような方法だな、と。人によって違うと思うんですけど、内省的に向かう人もいるかもしれないけど、僕はどちらかというと建築とか街を観ることが仕事だから、普段は重要なものと重要じゃないものを選別するわけじゃないですか。これは重要とか重要じゃない、とか。でも、そんなにゆっくり歩いたら暇だから全部見るじゃないですか。だからやっぱりモノの見方が断然変わるし、僕はこういう風に受け取ったけれど人によっていろんな受け取り方がある。後は、秋か冬だったから、ちょうどアーケード街から出発して歩いていたんで、余計に都市を歩く感じ。
 ま、なんかいろんなものに補助線を引けるのがスローウォークなので。たとえば、ウォルター・ベンヤミンのパサージュ論みたいな。ベンヤミンがパリのちっちゃなアーケードをふらふら歩きながら、歩くことと考えることみたいなものでエッセイを書いたりとかしているし。パサージュ論は、一種のパリの都市論でもあるんですけど、そんなようなことも考えられる。
 後は、スローウォークって内容よくわからないけど、言葉を聞いただけでなんとなくこんな感じじゃないかって勝手にはじめる人もいて、本江(正茂)さんがそれやったんだよ。
 僕がTwitterか何かとにかくスローウォークっていうのがあるって言ったら、本江さんが札幌に出張したときに、具体的にやりかたはよくわからないけどやってみたって言っていて。すごい波及力なんだなと思って。

ちば:確かに想像しやすい。

五十嵐:丁度、あいちトリエンナーレを準備しているときで、街でワークショップをやるプログラムの枠がいくつかあったので、翌年には、篠原さんに名古屋に一回来てもらって、円頓寺商店街のアーケードで一回ワークショップはやりました。円頓寺商店街は、次回のあいちトリエンナーレの会場にもなるんですけど、ちょっと昭和の香りのする古いお店が並んでいる、けど、別にシャッター商店街ではない、というアーケード街で。理由はよくわからないけど、円頓寺商店街でパリ祭をやるんですよ。もしかして、アーケード、パサージュ繋がりなのかなあって思うんだけど。
 後は、スローウォークは気づく人がいる。ふと、5 分前のこの人位置変わってない、って店の人が気づいたりするのとかね。

白鳥:篠原さんが、愛知でやったときは割と並んで歩いちゃった感があって居づらかった、後はまとめきれなかったって...

五十嵐:円頓寺商店街ねえ。愛知は仙台ほど歩行者量が多くないんじゃないかな、雑踏に紛れているっていう感じにはならなかった気がする。

白鳥:愛知のときは特になにかアウトプットしたりはしたんですか。

五十嵐:斧澤さんが何か簡単なレポートくらいつくっているかもしれないけどねえ...
あとはきっと身体論の人だったら、なにか出てくるんじゃないですか。止まっているのではない、止まっているくらいゆっくり動く身体の動きはなんぞや、っていう話もきっとあると思いますけど。

ちば:私、終わると筋肉痛になるんですよ。皆はならないみたいで...

五十嵐:あ、あれに近いよね。牛歩。国会とかで投票をわざと遅らせるために歩くみたいな・・・

*S-meme

「S-meme(エスミーム)」は仙台の文化トピックにテーマを当て制作される文化批評誌である。東北大学大学院都市・建築学専攻が仙台市と連携し運営する教育プログラム「せんだいスクール・オブ・デザイン(以下 SSD)」の「メディア軸」スタジオ成果物として、受講生による仙台の文化のリサーチを元に、毎回異なるテーマで一学期(半年)毎に一冊制作される。また、内容と連動した特徴的な装幀デザインが採用されている。


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