報告 2013年05月01日更新

第8回3.11定点観測写真アーカイブ・プロジェクト 公開サロン「みつづける、あの日からの風景」レポート


【開催概要】
日時:2013 年 5 月 1 日(水)14:00-16:00
会場:せんだいメディアテーク 1f オープンスクエア
(参考:https://www.smt.jp/projects/teiten/2013/05/3-11--18.html


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在仙の大学生たちによる一般公開サロン。3.11定点観測写真の活用の仕方や、東日本大震災を次世代に残すために、どのようにこの大震災をアーカイブし、発信していくのかを参加者と一緒に考えました。

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ダイガクセイが考える「アーカイブのかたち」

アーカイブという装置は、時代の発展とともに、誰もが手軽に利用できるものになると同時に、そこに蓄積された記録の総量も、膨大なものとなってきました。アーカイブ化された記録の中には、公にされてきたものも、個々人がしまいこんできたものもあるでしょう。そして、たった1枚の写真であっても、撮影者が感じた当時の思い、さまざまなストーリーが、その背後には拡がっています。
今回の公開サロンでは、そうした問題意識を持ちながら、私たちが関わっている4つの活動について発表しました。

全体の様子1

最初は「六郷・七郷コミネット」と「20世紀アーカイブ仙台」が中心となって若林区内の仮設住宅で開催している、「8㎜フィルムで楽しむっ茶会」です。これは懐かしの生活用品、写真・映像を示しながら、被災された方々に当時のお話を伺う活動です。そこでは回想法という手法によって、「思い出の集合体」を作り出していきます。
戦後の仙台平野のコミュニティのあり方を記録することは、震災以降の地域コミュニティの維持、再生にも役立つかもしれません。
昭和時代の生業は、お互いに助け合うことを当たり前としてきました。しかし、小規模に行われてきた農業・漁業は震災以降、大規模化が図られようとしています。その中で、これまでの地域生活やコミュニティのあり方も、大きく変わろうとしています。
津波被災によって戻ることができない地域の、変化しつつある生業のあり方を記録し、当時の生活風習を後世に伝えていくことが、ますます重要になっています。

全体の様子2

つぎに3月中旬、仙台市市民文化事業団と三本塚町内会によって行われた「オモイデゴハン食堂」です。これは若林区の三本塚地区で親しまれてきた昔ながらの食事を、被災された方々と一緒に作ることで、交流の場を生み出すとともに、他の地域・次の世代へと、三本塚地区の記憶をつなげようとする活動です。
参加者からは、「野菜を中心とした、バリエーション豊かで健康的な食文化が根付いていたように感じた」という感想も聞かれました。今後も「オモイデゴハン食堂」のような取り組みを通して、地域の食文化のファンが拡大、増加していけば良いのではないでしょうか。

発表する参加者

3つ目に、若林区中央市民センター・六郷市民センターが企画している「子どもたちに伝えたい六郷の暮らし~平成の六郷を振り返る~」です。日常的な生活場面で共有されてきた暮らしが、六郷地域では震災によって断ち切られてしまいました。それらを子どもたちに伝えるためには、大人たちが積極的に語り継がなければなりません。
勉強会を通して、この地域には商店や茶屋などが多く存在していたこと、地域間の世代をこえた交流が盛んであったこと、「ろくもんす」(三角ベースの一種)のような独自の遊びが存在したことが分かりました。
津波はまた、大人世代の思い出が詰まっている六郷地域を、子どもたちにとって恐ろしい場所へと変えてしまいました。「子どもたちに伝えたい」という表題には、そうした子どもたちにも、この地域を愛して欲しいという願いが込められています。

会場の参加者の皆さん

最後に、「20世紀アーカイブ仙台」が行っている「定点観測」です。これは、震災直後の被害状況を踏まえながら、中長期にわたって復旧・復興のプロセスを記録しようとする活動です。
私たちが参加した松島・塩釜の「定点観測」では、次のような光景が印象的でした。津波によって流された郵便ポストと、塩害によって伐採された瑞巌寺の雑木林――郵便ポストは設置しなおせば元通りになりますが、切り倒された杉林の復活には数十年かかるでしょう。このように人工物と自然は、そもそも復興のスピードが異なります。
一方、個人の商店など人の生業については、震災以前の経済力が大きく影響してきます。震災から2年が経過し、元気に営業しているお店もあれば、現在もなお再開できないお店もあります。
このように同じ被災地といえども、復興のスピードはさまざまです。この複数化した復興のスピードこそ、「定点観測」が記録すべきテーマになるのだと思います。
私たちの報告途中、六郷地域の思い出を語りはじめた高齢男性がいました。その方が思い描いていた光景は、とても素敵なものだったように思います。端から見れば、何の変哲もない風景や写真であっても、当事者にとって、それは何らかの記憶を手繰り寄せるものなのです。
私たちが関わっている4つの活動は、アーカイブの手法こそ多様ですが、自分や地域の歴史を振り返りながら、震災以前・震災以降の生活のあり方を、次の世代に残していくことを共通課題としています。そこに参加させていただいている私たち自身も、今まで以上に周りの物事に愛着が感じられるようになったり、ものの見方が豊かになったりしているように感じます。

報告:報告:東北学院大学経済学部共生社会経済学科4年
池田貴洋・大場雄人・金子拓斗・佐藤香奈・曳地翔太・渡部彩友里





*この記事はウェブサイト「考えるテーブル」からの転載です(http://table.smt.jp/?p=2954#report


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