報告 2021年04月27日更新

【報告】バリアフリー上映「飯舘村に帰る」


2020年11月29日(日)に、バリアフリー上映「飯舘村に帰る」を開催しました。

[日時]2020年11月29日(日)
    ①10時30分から12時30分/上映後のトーク(45分間、手話通訳付き)ふくむ
    ②15時から16時/上映のみ 
[会場]せんだいメディアテーク7階スタジオシアター

上映会当日の受付の風景

上映会について

バリアフリー上映の経緯と上映作品について

せんだいメディアテークでは、だれでも気軽に映画を楽しめるよう、音声解説・日本語字幕・託児サービス付きのバリアフリー上映会を開館当初より開催してきました。映像に付く音声解説と日本語字幕は、当館で活動するボランティアが制作しています。

音声解説とは、目の不自由な方も映画を楽しめるよう、登場人物の動きや風景などを音声で解説するものです。日本語字幕とは、耳の不自由な方も映画を楽しめるよう、セリフや生活音などさまざまな音を文字で伝えるものです。今回は、バリアフリー上映の特徴やボランティア活動の魅力を知ってもらえるよう、普段はFMラジオを通して希望者だけにご利用いただいていた音声解説を会場全体に流し、日本語字幕付きの映像を上映しました。

バリアフリー上映では、これまで商業映画を中心に上映してきましたが、今回は初めての試みとして、当館が運営する東日本大震災にまつわる市民参加型アーカイブ活動「3がつ11にちをわすれないためにセンター(わすれン!)」の映像記録から『飯舘村に帰る』を上映しました。『飯舘村に帰る』は、避難指示が解除され、村に帰る選択をした福島県飯舘村の人びとに、暮らしや村への想いを聞いた記録で、わすれン!参加者の島津信子さんと映像作家の福原悠介さんが制作したものです。

トークのようす

午前の部に開催したトークでは、制作者の島津信子さんと福原悠介さんをお招きし、飯舘村での撮影に至った経緯や、バリアフリー上映での新たな気づきについてお話をうかがいました。

島津信子さんと福原悠介さん

(左)島津信子さん/(右)福原悠介さん


また、今回の上映に向けた音声解説と日本語字幕の制作活動を振り返りながら、ボランティアのみなさんにも制作の感想をうかがいました。
当館で活動するボランティアにとって、震災記録の音声解説と日本語字幕の制作に取り組むのは今回が初めてです。ボランティアの間ではさまざまな試行錯誤が繰り広げられました。

音声解説制作ボランティアの猪飼さん 日本語字幕制作ボランティアの荒井さん
音声解説制作ボランティアの佐藤さん 日本語字幕制作ボランティアの渡辺さん

音声解説・日本語字幕制作ボランティアのみなさん

音声解説では、限られた時間の中で実際の村の風景をどのように伝えるか、また、強いメッセージ性がある作品ではないためどこまで踏み込んで解説をするか、とても悩んだといいます。田畑が広がる村の風景には、よく見ると汚染土が入った袋を覆う緑色のシートが映ります。映像では主張していませんが、メンバーで何度も話し合った結果、「のどかな村の風景に人工的な異物があるという事実を伝えるべきでは」と考え、少し踏み込んで解説を入れたということでした。
日本語字幕では、商業映画と違い、セリフではない会話やその土地ならではの言葉(方言)を文字にしていく難しさがあったといいます。また、村の方々の逡巡する言葉からその心の動きが読み取れるのではないかと思い、はっきり聞き取れる言葉だけではなく言いよどんだ言葉も文字に起こしていったという話があり、一つ一つの言葉に丁寧に向き合っていたことがうかがえました。

こうしたボランティアの活動から、繰り返し映像を見て、そこに描かれているものを丁寧に読み解いていく行為が見えてきました。活動に立ち会ってきた福原さんからは、バリアフリー上映における「バリアフリー」とは、出来上がった音声解説や日本語字幕が付いた状態を指すだけではなく、出来上がるまでの試行錯誤のプロセス全体を指すことに気づいた、という話がありました。

トークには情報保障として手話通訳が付き、目や耳の不自由な方もそうでない方も、震災、言葉(方言)、障害などについて、さまざまに思いを巡らす時間となりました。

トークの内容全文はこちら⇒テキストファイルPDFファイル

[写真]渡邊博一
[情報保障]一般社団法人宮城県聴覚障害者福祉会 みやぎ通訳派遣センター

来場者の感想(上映会アンケートより)

・様々な立場の人々と共に飯舘村の人々の苦しみや思いを分かち合えたことがとても良かったと思う。

・音声解説で「紅葉の木が電線に届きそうなほど伸びている」とあった時、風景の見え方が変わったのが新鮮でした。自分(制作者)のフィルターを通して人(盲・ろうの人)に伝えることの危うさを感じながらも、勇気を持って伝えようとするみなさんの姿勢が印象的でした。

・見るたびに登場した方々が近しく感じられますね。人の強さを思い知らされました。

・人から村をとらえる、という監督の言葉の通りのドキュメンタリーでした。「飯舘村に帰らない」という人の方にも視点が向いたのが今日のトークの気付きでした。

・バリアフリーの取り組みの状況に触れることができ視野が少し広がった気がする。

・会場をよく見ると、ヘッドホンをつけた人、補聴器をつけた人がたくさんいて、機会があればこういう作品を観たい人はたくさんいるんだなあと感じました。

『飯舘村に帰る』バリアフリー版DVD発行のお知らせ

『飯舘村に帰る』の音声解説・日本語字幕付きDVDを、わすれン!より発行します。DVDは、当館2階の「映像・音響ライブラリー」にて貸し出しをします(貸し出し時期は、ウェブサイトやSNSでお知らせします)。

また、今回のバリアフリー上映における音声解説・日本語字幕制作ボランティアの一連の取り組みを紹介した記録映像『震災記録を見る、読む、囲むー「飯舘村に帰る」バリアフリー上映の記録ー』を制作しました。障害のこと、方言のこと、そして震災とその記録への向き合い方について、あらためて考え関わり合った軌跡の記録です。この映像も当館のボランティアが音声解説と日本語字幕を制作し、DVDとして発行します(貸し出しは2021年度中を予定)。『飯舘村に帰る』本編と合わせてぜひご覧ください。

日本語字幕制作ボランティアの活動風景









日本語字幕制作ボランティアの活動風景
(『震災記録を見る、読む、囲むー「飯舘村に帰る」バリアフリー上映の記録ー』より)

関連資料

■バリアをつくりだす

『飯舘村に帰る』の制作者で撮影・編集を務めた福原悠介さんより、音声解説・日本語字幕制作ボランティアの活動に立ち会った気づきから、文章を寄せていただきました。

文章の内容全文はこちら⇒テキストファイルPDFファイル

文章の一部は、当館の鷲田清一館長による朝日新聞の連載「折々のことば」で紹介されました。





バリアはコミュニケーションがなければ生まれません。(福原悠介)

段差がバリアになるのはそれを越えてどこかへ行こうとするから、声がつまるのも誰かに話しかけようとするからだと、映像作家は言う。だからバリアフリーというのも、「伝えたいけど伝わらない、やりたいけどできないこと」を別の仕方で乗り越える試みなのであって、「バリアがない」ことではないと。ドキュメンタリー作品「飯舘村に帰る」の仙台での上映に寄せた文章から。

朝日新聞 2020年11月30日(月)
折々のことば:2009 鷲田清一


■バリアフリー上映の予告編映像

[構成・編集]福原悠介
[撮影]相原洋
[音楽]澁谷浩次(yumbo)「二十六夜待ち:テーマ (Waiting for 26th Night - Theme)

予告編映像に関する福原悠介さんのテキスト
もしもバリアフリー上映の「予告編」があるとしたら


■『飯舘村に帰る』アフタートーク 島津信子×福原悠介

星空と路-これまでの記憶、これからの記録-(2019)より
https://recorder311.smt.jp/blog/59149/


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