2023
03 02
メディアテーク開館
仙台市民図書館開館
報告 2021年10月08日更新
【報告】手話による読み聞かせボランティア養成講座(第3回)
|
2021年8月8日(日)に「手話による読み聞かせボランティア養成講座」の第3回を開催しました。
*第1回目の報告ブログはこちら
*第2回目の報告ブログはこちら
第3回目となる今回の講座では、受講生が一人ずつ読み聞かせをしたあと、難しかった表現を中心に池田先生からアドバイスを受けました。池田先生は、ポイントとなる場面の見本を見せながら、受講生の表現を細かくチェックしていきました。
絵本『わたしのワンピース』(作:西巻茅子、出版:こぐま社)を選んだ受講生からは、「主人公のうさぎがミシンを使ってワンピースを縫う表現が難しい」という相談があり、池田先生からは「耳栓をした状態でミシンを使ってみて、そのときの目線や肩の動きを確認すると良い」とアドバイスがありました。ミシンをかける動作をイメージしてみると、針が上下するのに合わせて肩も上下に動くことがわかります。このように、絵本のキャラクターの動作を実際にやってみたり、イメージトレーニングしたりすることが大事だといいます。
また、うさぎがお花畑を散歩するシーンでは、花の「やわらかさ」をイメージして表現すると良いというアドバイスがありました。「お花畑」は、手話単語の「花」(両手を軽く握って手首をつけ、どちらかの手の甲が前に向くように構え、手首をくっつけたまま水平に回転させながら指を開く。つぼみから花が開くイメージ)を繰り返し表現します。そこで大事なのは、指先、目、口の形まで意識することだそうです。指先をしなやかに動かし、目は細めて、口は少し開けた状態にします。池田先生の手本を見ていると、この場面で描かれているやわらかいお花畑の雰囲気が伝わってきます。
第2回のブログで、物の形や動きなどを表現する「CL(シーエル)」について紹介しましたが、このように、手だけでなく、目や口や眉など顔の部位の動きのNM(NMについてはこのあと説明します)もCLの表現に欠かせないことがわかりますね。
他にも、手以外を使う手話の表現はたくさんあります。受講生の一人が選んだ絵本『いやだいやだ』(作:せなけいこ、出版:福音館書店)では「いやだ」という〈否定〉の表現がたくさん出てきますが、手話における〈否定〉は首振りで表現します。逆に〈肯定〉の場合はうなずく動作をします。うなずきや首振り以外にも、目の開き方や眉の上げ下げ、あごの位置(あごひき)などで疑問文を表現するなど、顔のあらゆる部位の動きが文法を示す働きをしています。これを日本手話文法の専門用語では、NM(「エヌエム」と読む。Non-Manualの略で、非手指要素を意味する)といいます。
『わたしのワンピース』の物語の最後にうさぎが空から地上に戻ってくる場面では、驚きの表情と「指差し」をつけることで、場面転換を明確にすると良いとアドバイスがありました。
これまでの講座の中でも、「ここには指差しが必要」と池田先生が指摘する場面が何度かありましたが、実はこの「指差し」もとても大事な文法の一つです。日本手話文法の専門用語ではPT(「ピーティー」と読む。Pointingの略で、指差しを意味する)といい、人称(私、あなた、彼)や指示代名詞(これ、それ、あれ)を表わします。PTをつけることで、そのとき何について話しているのかをはっきり示すことができます。
さらに大事なのは、この場面転換を「子どもたちと一緒に驚くこと」と池田先生は言います。第1回目のレクチャーで池田先生からお話のあった「この読み聞かせの時間をみんなで共有している」ことの大切さをあらためて意識した時間となりました。
講座の最後には、今回も池田先生からお手本で読み聞かせを披露していただきました。絵本は『うたがみえる きこえるよ』(作・絵:エリック・カール、訳:もりひさし、出版:偕成社)です。
この絵本は、ほとんど文字がなく、絵で音楽を表現しています。池田先生はヴァイオリンを弾く動きをしながら、それぞれのページで奏でられる音楽を手や上半身の動きを使って表現しており、実際に演奏を聴いているかのような気持ちになりました。
次回以降も、このブログで講座の様子をお伝えします。どうぞお楽しみに!
===============
参考文献
NPOバイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター編
岡典栄・赤堀仁美(2011)『文法が基礎からわかる 日本手話のしくみ』大修館書店
松岡和美(2015)『日本手話で学ぶ 手話言語学の基礎』くろしお出版
⇒第4回の報告ブログはこちら